

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
ビジネスと社会貢献、どちらが”主”でどちらが”従”なのか。ミダスキャピタル代表パートナーであり、公益財団法人ミダス財団の代表理事も務める吉村英毅さんは、「どちらも並列に動いています」と言い切ります。企業群時価総額100兆円と、1億人の人生へのポジティブな影響──同じ2050年を見据えるその財団がいま、ひとり親家庭およそ300世帯へ半年間の食を届けています。吉村さんと、事業統括の玉川絵里さんに、その設計に込めた考えと、財団が描く未来を伺いました。
取材・編集:gooddo編集部
ビジネスと並んで走る、“もう一つの本業”
まず、ミダス財団がどのような団体なのか教えてください。
(吉村さん)私たちがやっていること全体を、「ミダスプロジェクト」と呼んでいます。ビジネスとソーシャル活動2つを合わせた総称で、その一翼を担っているのがミダス財団です。
ビジネスのほうは、マジョリティ出資を行うプライベートエクイティファンド(企業の株式を取得して経営に関わり、価値を高める投資会社)に近い形です。ただ、外部のLP(ファンドに出資する投資家)がいらっしゃらず、すべて自己資本のみで運営しているのが一番の特徴です。途中で転売はせず、上場以降も筆頭株主としてあり続けます。この会社の集まりが「ミダス企業群」で、いま20社ほど、時価総額の総計はおよそ5,000億円超になります。

ミダスキャピタルとミダス財団、それぞれどのような目標でしょうか。
(吉村さん)はい。ミダスキャピタルを立ち上げてほどなく、2019年にミダス財団の法人をつくりました。まず財団の一番の特徴は、財源です。ミダスキャピタルの収益と、私を含むミダスグループ幹部やミダス保有分からの寄付のみ。完全に独自の財源です。
目標は、まずミダス企業群の時価総額を2027年に1兆円、2035年に10兆円、2050年に100兆円。日本発の、世界に冠たる企業群をつくり上げていきたいと考えています。財団は、これとまったく同じ時間軸で目標を置いています。2027年に1万人、2035年に100万人、2050年に1億人。この人数の方々の人生に、深いポジティブな影響を与えていく。それがミダス財団の目標です。
具体的には、どのような事業に取り組まれているのでしょうか。
(吉村さん)かなり幅広い分野に、目安として年に一つずつ、新しいチャレンジを続けています。ですから、ソーシャル事業が積み上がり式で増えていく形になっています。
- 国内:特別養子縁組事業(日本で最大級の規模)
- 国内:子どもの体験事業
- 国内:ひとり親家庭への支援事業(今回の食支援)
- 海外:ベトナム、カンボジア、ブータン、ラオスの貧困地域での無償の学校づくりや周辺環境の整備
一旦始めたことには、ずっと責任を持って取り組み続けます。

NPOへ寄付をするのではなく、自ら事業を手がける
他の団体へ寄付や助成をするのではなく、財団として自ら事業を行うという座組を選ばれたのはなぜでしょうか。
(吉村さん)私たちが財団としてやりたいのは、最も資本効率が良い形で、社会的インパクトの最大化を目指していくことです。そのためには、自分たちが直接やるのが一番いいと考えています。
ですから、他の団体への寄付や助成だけではなく、原則として自分たちでマネージしています。年に一つずつ事業が増えるので、毎年人が増えて、会社と同じように成長していく感覚に近いですね。
「資本効率が良い」というのは、具体的にはどういうことでしょうか。
(吉村さん)たとえば世界銀行が海外に学校を1棟つくると、平均的に1.5億円ほどかかるようです。私たちは、だいたい8分の1ほどのコスト感で進めています。理由はおそらく3点です。
1つ目は寄付をするのではなく自分たちが直接やっているので、間接コストが極小化されていること。2つ目は相見積もりやボランティアチームでの役割分担といった、ビジネス的な努力をしていること。そして3つ目は財源をすべて自分たちで賄っているので、説明のコストがとても低いことです。同じ予算でも、より多くの支援を、より多くの方へ届けられるということです。

「子ども時代の機会の平等」に役立てることができるなら。一社の社長の提案から始まった
ここからは、今回のひとり親家庭支援について伺います。まず、取り組みの概要を教えてください。
(玉川さん)ひとり親家庭およそ300世帯に、冷凍宅配食「三ツ星ファーム」を無償でお届けしています。1世帯あたり約6万円相当、14食入りのセットを最大6回、ご家庭が選んだ日時に合わせてお送りする仕組みです。
「三ツ星ファーム」は、ミダス企業群の一社である株式会社イングリウッドが手がけているサービスです。管理栄養士が栄養設計を担い、味わいの監修にはミシュランの星を獲得した経験を持つシェフが関わっています。電子レンジで温めるだけで、野菜とタンパク質が中心の一皿が食卓に並びます。
この取り組みは、どのように生まれたのでしょうか。
(玉川さん)2024年に特別養子縁組事業、2025年に子どもの体験事業を立ち上げて、「次に取り組むべきことは何か」と考えていた時期だったんです。
そこで吉村と私が、ミダスの投資先企業を1社ずつ訪問しました。「ミダス財団と連携して、ソーシャル事業を一緒にやりませんか」と、本当にいろいろなご提案をさせていただいたんですね。そのなかで、イングリウッドの黒川隆介社長が手を挙げてくださいました。
黒川社長は普段から「子ども時代の機会の平等」や国内の貧困格差に強い問題意識を持たれていて、「特にいまの日本では母子家庭の貧困率が高く、働いているのに苦しいという方が多い。そうした方々に対して、うちの食品事業である冷凍宅配食の「三ツ星ファーム」が役に立てるのなら、ぜひ年間2,000万円分ほど寄付をしたいです」と、黒川社長のほうからご提案くださったんです。
当初は「母子家庭支援」という構想だったんですね。
(玉川さん)そうなんです。ひとり親というと「母子家庭」のイメージが強いかもしれませんが、公益法人が運営する事業としてやるときに、「母子家庭」という括りでいいのかを考えました。
それで黒川社長には、「父子家庭も含めて、ひとり親家庭の支援という形でこの事業をやらせてもらえませんか」とご提案させていただいて、いまの形になりました。ひとり親家庭が抱えている課題は、お母さんでもお父さんでも共通しているところが多いですから。

単発では暮らしは変わらない。長期支援にした理由
2,000万円分を何世帯に届けるかは、かなり議論されたと伺いました。
(玉川さん)はい、そこはとても議論しました。単発で1回お弁当をもらうのも、もちろん嬉しいことです。でも、本当に意味があるのは、子どもたちの食習慣そのものが変わることだと考えたんです。
ひとり親家庭は、経済的に苦しいだけではありません。親がひとりしかいないご家庭では、ゆっくりご飯を作って、ゆっくり会話をしながら食べるということが、なかなかできない。この声は、いろいろな支援をしている中で本当によく聞いてきました。だとすれば、生活習慣にまで入り込めるくらいのスパンで支援をしないと、短期的な支援で終わってしまいます。
そこで、各世帯に長期でお届けする形にしました。給食のない夏休みを皮切りに、配送の間隔を空ければ、長い方だと冬頃まで届き続けます。結果として300世帯という数になりましたが、まずはやってみようと決めました。

インパクトレポートでは、この取り組みを「今日の”食のゆとり”から、明日の”安心と自立”へ」と表現されています。目の前の食支援を、どう”自立”につなげていくお考えでしょうか。
(玉川さん)お弁当が届くことで、暮らしそのものが変わっていく。そこを見ています。
ひとり親家庭では栄養バランスが炭水化物に偏る傾向があるという調査があります。三ツ星ファームは野菜とタンパク質が中心で、塩分や脂質も調整されているお弁当です。まだ仮説の段階ですが、これを半年続けたら「なんだか体調がいいな」と感じていただけるのではないかと考えています。
それに、温めるだけで食卓が整うので、お母さんやお父さんが子どもと一緒に食卓について会話しながらご飯を食べられます。いつもならバタバタと作って「先に食べてて」と言っていたところが、「今日こんなことがあってね」と会話をしながら食べる時間に変わる。健康に良い食事を「おいしい」と感じられる舌が育ち、生活習慣病の予防や、勉強に集中できる体づくりにつながっていく。いま届ける一食が10年後の暮らしをつくると考えて、長期の支援を設計しました。
所得制限なし、子どもからも申し込める
今回の設計で、特にこだわった点はどこでしょうか。
(玉川さん)一つは、所得制限をしなかったことです。
この種の支援では、多くの場合、所得制限が入ります。ただ、厳格に選別をすると、申請する側にも審査する側にもコストがかかります。ひとり親家庭のお母さん・お父さんは、本当に忙しい。そこに所得を証明する書類を取りに行って、申請して、審査を受けるというプロセスを求めるのは、大きな負担です。
もしこれが国の支援だったら、所得制限はあったと思います。そこは民間財団であることの特徴で、私たちが「いい」と言えば、所得制限なしでできるんです。それに、行政からの支援を所得制限でぎりぎり受けられないようなひとり親家庭でも、多くの課題感は共通しています。ひとりで働いて育てているので忙しくて、栄養バランスを意識したご飯を作って食べる時間がなかったり、子どもと夕飯を一緒に食べながらゆっくり会話する時間をとれなかったり。この支援の本質は、所得とは必ずしも直結しないんです。
なるほど。もう一つのこだわりは?
(玉川さん)お子さんからの申請も受け付ける設計にしたことです。親が忙しすぎて、こういう支援の情報すら届かないという方もいらっしゃると聞いていたので、中高生くらいなら自分で申し込めるようにしました。
ただ、蓋を開けてみたら、100%が親御さんからの申請でした。平日の日中にプレスリリースを出したことも影響していると思いますが、子ども世代にはこの情報がまっすぐ届かなかったのだと受け止めています。来年以降は、中高生世代にも届けられるようにしたいですね。こうした柔軟な設計ができるのも、民間財団ならではだと考えています。
反響はいかがでしたか。
(玉川さん)300世帯の枠は、1日半ほどで埋まりました。
これは少し反省していて、先着順にしてしまったんです。純粋に先着順にするのが公平だと考えたのですが、平日の日中にプレスリリースが出て、それをご覧になれた方が幸運にも申し込めた、という形になりました。ひとり親支援をされているNPOがLINEグループなどで拡散してくださった面もあって、そこから知った方もいらっしゃいます。
もし1週間ほど募集を開けていたら、おそらく100倍ほどのご応募があったと思います。来年以降は先着順ではなく抽選制にして、もう少し幅広い方に申し込んでいただけるようにしたほうがいいのではないかと考えています。初めての取り組みだったので、公平性をどう担保するかは、これから改善していくところです。

数字だけでは伝わらない、ひとり親家庭の”リアル”
ひとり親家庭と向き合う中で見えてきた課題はありますか。
(玉川さん)この1年ほどで、物価高騰によって食費が本当に高くなりました。お子さんは成長とともに食べる量が増えていくのに、食べさせてあげられない。お米も高い、お肉も買えない、栄養バランスを考えれば魚も食べさせたいけれど魚も高い。本当にタンパク質を食べさせてあげられていない、というお声を多く聞いています。
私たちは以前から子ども食堂への助成もしてきたので、子ども食堂の課題も伺ってきました。ニーズがどんどん高まっているのに食材が買えない、ボランティアスタッフが足りない。共働きが増えて、地域によっては子ども食堂の運営者そのものがいなくなっている。どうにかしなければいけない、とずっと感じていました。
実際に運営してみて、一番大変だったことは何でしたか。
(玉川さん)審査ですね。今回の唯一の要件は「確実にひとり親であること」なのですが、実は、ひとり親であることを証明する統一的な公的書類というものが存在しないんです。
児童扶養手当はひとり親家庭向けの手当ですが、所得が一定を超えると受給できなくなります。医療費の受給者証も、「ひとり親」とわかりやすく書いてある自治体と書いていない自治体がある。ですから公的書類のご提出をお願いしても、出てくる書類が人によって違うんです。職員が一つずつ確認しながら自治体に直接問い合わせをして、「この〇親というマークは、ひとり親という意味ですね」と、一件ずつ照らし合わせていきました。そうしたやり取りが350件ほど生じました。もう、やるしかない、という感じでしたね。
実際に支援を受けたご家庭からは、どのような声が届いていますか。
(玉川さん)申し込みの時点で自由記入欄を設けていたので、そこからいくつも声が届いています。「食費が高くなっていて、十分に食べさせてあげられない」「 子どもが3人いるのに働き手は自分ひとりで、忙しくて自分がご飯を食べることを忘れている」「食事を楽しんで食べるということが、まったくできていない」などです。
親御さん自身が栄養を取れていない、というお話も多いんです。おいしいものを食べられることは、日々の生活の潤いだと思います。「これおいしいね、という会話が子どもとできるのがすごく嬉しいです」という声をいただいたときは、この形にしてよかったと感じました。
黒川社長のお声なども届いているんでしょうか。
はい、実は初回のお弁当に、黒川社長からのお手紙を同封することになっています。「ぜひお子さんの話をよく聞いてあげてください、読書習慣をつけてあげてください」という、思いのこもったお手紙です。ただお弁当を食べるだけではなく、どうしてこのお弁当が手元にあるのかを、お子さんにも親御さんにも考えてほしいんです。

「三ツ星ファーム」を手掛ける株式会社イングリウッド・黒川社長
ビジネスも財団も“並列”に走っている
企業群時価総額100兆円と、1億人の人生への影響。この2つは、どのような関係にあるのでしょうか。
(吉村さん)そこは、まさに私たちのとても大きな特徴です。
一般的には、どちらかというとビジネスに従属するところに財団がある、というケースも多い気がします。私たちはそうではなくて、ビジネスも財団も、シンクタンクも、基本的にすべて並列に動いています。財団活動をビジネスのためにやっているわけでは、まったくありません。逆に、財団のためにビジネスが強くあるということでもない。互角に捉えていただければと思います。
もともと私は、ソーシャルビジネスをすごくやりたかったんです。ただ、実際にやってみると非常に難しい。それならば、ビジネスはビジネスとしてしっかり立ち上げて、そこで得た収益を、最も資本効率がいい形で社会貢献活動に投じていくことが良いと考えて、実行しています。
財団を”従”ではなく”並列”に置いているのは、自分たちが、それをすごくしたかったからです。それをすること自体が、私たちのビジョンなんです。100兆円の企業群をつくり上げること。1億人の人生に深くポジティブな影響を与えること。そのすべてが、やりたいことです。
2050年に1億人というビジョンに向けて、財団として最も大切にしていきたいことを教えてください。
(吉村さん)私たちがソーシャル分野を始めたのは2019年で、まだ6〜7年です。ビジネスはすでにかなり効率化されていることが多い一方、ソーシャルセクターにおいては、有用性も含めた意味での効率化がまだ進んでいません。私たち自身も発展途上です。ただ、その分だけ介在価値を出せる領域で、チャレンジングで面白い挑戦だと思っています。
そのうえで、どんなビジネスも、どんなプロジェクトも、どんなメンバーで向かうかで決まります。それが、私たちが最も重要視している考え方です。ビジネスでは、その分野で傑出している方にジョインしていただくことを最優先課題にしてきました。財団でも全く同じで、三菱総合研究所やMicrosoft、KPMG、JICAといった場で活躍されてきたメンバーが参画しています。
結局のところ、すべての鍵は、私たちの財団にどれだけ傑出した専門の方に来ていただけるか。そこにすべてがあると考えています。

インパクトレポートより
食から始まる次の一歩
ひとり親家庭の支援は、これからどう広がっていくのでしょうか。
(玉川さん)この冷凍弁当は、支援の1つ目でしかありません。今回の支援で約300件のひとり親家庭とのコンタクトができ、「どういう支援があったら嬉しいですか」「養育費はもらえていますか」などとお聞きするアンケートも実施しています。次の支援につなげるための土台が、ここでできたんです。
この先には、ADR(裁判外紛争解決手続き。裁判によらずに話し合いで解決を図る仕組み)の普及啓発という大きなテーマがあります。離婚でとても揉めたご家庭のお子さんは、育つ環境が本当に厳しくなります。子どもの福祉の観点からは、できれば円満に離婚してほしいですし、せめて夫婦の争いが直接子どもを傷つけることのないようにしたい。近いうちに、ADRの普及啓発動画を公開する予定です。
離婚に至る理由や背景は様々なものがあると思いますが、少しでも離婚による子どもの傷つきが小さくなるようにしたい。そして、養育費を受け取って成長することや、別居している親に会うことは子どもの権利です。どんなに別れた相手への思いが複雑でも、養育費は払ってほしいし、子どもに面会の機会を保障してあげてほしい。今日の一食を届けることも、その先の暮らしを支えることも、私たちにとっては地続きの仕事です。



