

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
2026年4月23日、東京証券取引所。犬猫生活株式会社の上場セレモニーで、代表の佐藤淳さんが記念の鐘を打ち鳴らしました。見届けたのは、同社に出資した前澤友作氏をはじめとする関係者たち。晴れやかな拍手に包まれたその場には、ここまで共に歩まれた社員のみなさんの笑顔がありました。
犬猫生活株式会社はペットフードの企画・販売を起点に、トリミングサロンや動物病院の運営など、わんちゃん・猫ちゃんの"生活"にまつわる事業を展開しています。そして自ら動物福祉の向上を目指す一般財団法人犬猫生活福祉財団を設立し、利益の20%を動物福祉に寄付するという、ひときわ目を引く仕組みをお持ちです。
上場を数日後に控えたある日、代表・佐藤様に創業から上場に至る道のりと、この先の未来について伺いました。
取材・編集:gooddo編集部

上場セレモニーでの代表・佐藤淳さんと前澤友作さん
「ビジネスとして成り立つ」と「情熱をかけられること」
まず、犬猫生活の事業内容について教えてください。
事業は大きく3つの軸があります。
フードやサプリメントなどの「生活物販」、トリミングサロンや動物病院といった「生活サービス」、そして譲渡会やマルシェなどの「イベント事業」です。
創業時は猫ちゃん向けのドライフード1種類からのスタートでした。
前職では食材宅配のOisix(オイシックス)にいました。その前はECのコンサルや運営代行を手がけていました。スモールビジネスとしては十分にやっていけるレベルでしたが、「何のためにやっているかわからないとおもしろくない」と気づいたんです。なので、もっと社会にインパクトを残せるような大きな事業をやりたいと思い、Oisixで修行して、もう一度ECの世界で自分なりのテーマで何かを立ち上げようと考えていたんです。
ただ起業するからには、ビジネスとして成り立つだけではモチベーションが続かないし、大きくもできないと考えていました。「ビジネスとして成り立つこと」と「情熱をかけられること」、この二軸で探していた時に、偶然にも弱った猫ちゃんを保護するという出来事があったんです。
もともと実家でわんちゃんと暮らしていて、動物が好きだったんですよね。ペットフードはビジネスとしても解決すべき課題がある領域だと思いましたし、動物への想いもある。そこでペットフード事業にしようと決めました。

"ビジネスは課題解決のツール"──利益の20%寄付という設計
なぜ利益の20%を寄付するモデルになったのですか?
最初は、わんちゃん猫ちゃんに恩返しがしたいという気持ちで、動物福祉団体にフードの寄付をしていました。ただ続けるうちに、ちょっとは役に立つけれど大きなインパクトにはならないと感じたんです。我々がいることで何かが大きく変わるというところまではいかないな、と。
そうであれば、ビジネスの力を使って持続的に課題を解決する方法はないかと考えました。
そこで会社が設立人になって動物福祉の向上を目的とする非営利団体をつくり、会社の利益の一部を寄付する形にしたんです。

20%という数字にはどんな根拠があるのですか?
20%は思い付きで決めたことではなくて、かなり考えて決めた数字です。
1つは、利益の20%の寄付は、社会貢献支出比率で日本1を目指せるレベルだと考えました。企業のCSR額やランキングの情報をもとに、他社さんの状況を見て決めました。寄付は、単なるCSRではなく、ブランド投資として考えていたので、中途半端な寄付率ではなく、十分にインパクトを残せるレベルであることを重視しました。
2つ目は、動物福祉の現場を支えるために充分な金額か、という観点です。これも、動物福祉の向上にしっかりと結果を出せるレベルで現場を支えることが大事だと思いました。
3つ目は、適正にコントロールできるかという観点。売上に対する比率で寄付しようとすると、利益の波がある時に経営が苦しくなります。でも利益を基準にすると無理がない。当社の場合、経常利益の20%は、売上に対し3%くらいです。広告宣伝費と考えれば、多い数字ではありません。この3つのバランスで、20%と決めました。

自分たちで財団をつくる覚悟
犬猫生活福祉財団を自分たちでつくったのはなぜですか?
寄付の金額が大きくなると、その寄付がちゃんと使われているかという透明性が重要になります。ただお金を渡したというだけでは共感を得られない。だから自分たちで財団をつくり、寄付金の使途についても透明性を確保できる設計にしました。
財団は完全に別法人で、私が代表理事を兼任し、会社から一名出向しています。
正直、財団の運営は大変で、シェルターで保護犬・猫の命を守る責任は非常に重く、お金もかかります。ただ、その労力に見合ったリターンはちゃんとあると感じています。
一つはブランドの確立です。「ペットの家族化」で、我が子に良いごはんを食べさせて、長く健康でいてほしいというニーズは高まっています。その中で、どのフードを選ぶのがベストか、不安を抱える飼い主さんは多いです。特に、わんちゃん猫ちゃんは言葉を持たないですからね。フードの寄付をする企業さんも多いですが、私たちのように自ら財団をつくったり、「利益の20%の寄付をする」と決めて実行しているところはありませんので、そのことが、私たちへの信頼や応援につながっていると感じます。
もう一つ、実は採用にものすごく効いているんです。ほぼ採用費をかけていないのですが、転職を考えていなかった人が商品や記事をきっかけに「こんな会社があるんだ」と来てくれるんです。この仕組みは他にはないので、そこに価値を感じてもらえていると実感しています。

前澤ファンドからの出資があったと伺いました。どのような経緯だったのですか?
以前前澤さんが「10人の起業家」を募集されていたことがありましたよね。2018年に会社を創業して、2020年頃にちょうどその募集があったんです。ちょうど1回目の資金調達を進めていたタイミングで、他のVC(ベンチャーキャピタル)と並行して申し込みました。
結果的に応募が4,500件くらいあったそうで、審査に1年ほどかかったんです。その間に他のVCで資金調達が決まっていて、忘れかけた頃に「1次の書類審査通過しました」と連絡が来て(笑)。次のラウンドの資金調達もあるので、そのまま面談を進めていきました。

前澤ファンドとの出会いが、今の事業モデルに影響もありましたか?
そうですね。面談の時に前澤さんから「商品はいいし、ビジネス自体も悪くない。でも、もう一軸ないと成長が止まるんじゃないか」というフィードバックをもらったんです。当時すでに寄付の取り組みはしていたので、「社会貢献にもっと本気で取り組んで、それを全面に押し出して成長戦略に組み込めたら良いのではないか」と議論するきっかけになりました。
実は前澤ファンドの審査基準が、社会貢献性も含まれていたんです。普通のVCだとなかなか社会貢献の企画は持っていきづらいんですが、前澤ファンドには思い切って今のモデルを当てることができました。
また、初期のメンバーが動物福祉への想いが深い人たちばかりだったことも大きいです。いろんな出会いとタイミングが重なって、今のモデルが出来上がりました。

お客様と仲間が支える"循環"
お客様や従業員の皆さんからはどんな声がありますか?
お客様からは「うちの子の毛艶が変わった」「体調が良くなった」という商品への声が一番多いですね。みなさん、ご自身のうちの“我が子”が第一です。そのうえで「いい商品で、しかも、いい会社だから応援したい」と言っていただけるのは本当にありがたいです。
新規のお客様の3〜4割は財団や寄付の仕組みを知った上で購入してくださっています。会報誌を月1回発行して財団の活動もお伝えしていますので、商品の特徴から当社の会員になられた方が、あとから動物福祉の取り組みを知ってファンになっていただく流れもできています。
メンバーも、売上が上がることがそのまま社会の役に立つという実感が得やすい環境なので、みんなすごく前向きです。オンライン会議でにゃんことかわんこが出てきたり、”うちの子”の様子をシェアし合ったり、そういう雰囲気も大事にしています。

会社の壁に貼られた「行動指針」のポスター。社員犬・猫をモデルにしているそう。
最高の仲間と、最高の仕事を
まもなく上場を迎えますが、今後の展望を教えてください。
商品ラインナップの拡充やリアル店舗への卸展開に加えて、動物病院やサロンの事業も広げたいです。実は動物病院は個人オーナーによる運営が9割程度という業界で、後継者不足が深刻です。
実際に、地方の動物病院をM&Aで引き継いだケースもあるのですが、その地域唯一の病院だったりするので、なくしてはいけない存在なんです。法人として体制を整えて、持続可能な状態にしていくことが大切だと思っています。
また、海外、特にアジア圏への展開にもチャンスを感じています。欧米は飼育率が6〜7割と高い分、強いメーカーがたくさんいます。一方、アジアではわんちゃん猫ちゃんと暮らす富裕層が急増していて、最初からいいものを欲しがっているのに、まだ買える環境が整っていない。食の分野は日本が強いですし、ペット×食という切り口で日本発のグローバルブランドになっていきたいですね。
財団側としての目標としては、財団は財団で独立して回せるモデルをつくり、トータルで日本全体の動物福祉を良くしていきたいと考えています。

4月23日上場当日、代表の佐藤淳さんは記者会見で海外展開について問われ、手応えを語りました。
台湾での商品販売はすでに始まっており、現地の反応から手ごたえを感じているといいます。印象的だったのは、利益の使い方への考え方。台湾で生まれた利益は台湾の中で循環させる―そんな構想を、模索中の取り組みとして語ってくださいました。
「各国ごとに、循環につながる形を見つけていきたい」という言葉は、事業の成長と地域への還元を切り離さないという姿勢の表れでもあると感じます。国境を越えながらも動物保護を目指していることは、新たな企業の在り方なのではないでしょうか。




