

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
厚生労働省の調査によれば、日本の母子世帯は約119.5万世帯、母親自身の平均年間就労収入は236万円にとどまります。この数字に、寄付ではなく事業で向き合っているのが、ツムグワークス株式会社 代表取締役・小原光弘さんです。インサイドセールスと経理の代行を手がけ、実務を担うのは21名全員がシングルマザーですが、営業の場で「シングルマザー支援の会社です」と語ることは、ほとんどありません。その理由と、描いている未来を伺いました。
取材・編集:gooddo編集部
経理経験者を、必要なときだけ。まず”サービス”として選ばれたい
まず、ツムグワークスの事業内容を教えてください。
大きく2つの領域があります。一つはインサイドセールス支援で、電話やメールで商談のアポイントを取っていく、営業代行と呼ばれる領域です。もう一つが経理代行で、企業のバックオフィス業務をそのまま代わりに担います。
どちらもアウトソーシングサービスで、実務を担うメンバーは全員シングルマザーの方です。全国各地から、在宅で働いていただいています。インサイドセールスは未経験で入られる方がほとんどですので、1〜2週間ほどオンボーディングの期間を設けて、教育やレクチャーをしながら実務に入っていただきます。経理は経験者の方が中心ですね。結婚する前に経理をやっていました、簿記の資格は持っています、という方が本当に多いんですよ。
導入されている企業は、どんな業種が多いのですか。
業種はかなりバラバラですね。
経理でいうと、上場企業のような大きな会社でも、月末月初は繁忙期になって社員の方の残業が増えてしまう。そこをスポットで補いたい、というニーズがあります。逆にスタートアップでは、そもそも経理部門がなくて代表取締役が自分で経理をやっている。そこをまるっと外注したい、というご相談もいただきます。インサイドセールスは、IT企業様が中心ですね。資金調達をして営業をさらに強化したい、という段階の会社様から外注いただくことが多いです。
競合が多い領域ではあるのですが、経理の経験者を外注できるサービスは意外と少ないんです。オンラインアシスタントのサービスよりも経理の専門性があって、公認会計士の方が立ち上げた経理代行よりはリーズナブル。その中間が刺さっているのだと思います。
サイトを拝見しても、シングルマザー支援のことは大きくは書かれていません。あえてそうされているのですか?
そうですね。そもそも「シングルマザーを応援したいから」という理由で選んでくださる企業は、ほぼゼロなんです。皆さん純粋に、BPOサービスとして選んでくださっている。
ですので、ちょっと迷いながらではあるのですが、今は出さないほうがいいと思っています。クライアントさんにとって、そこはベネフィットではありません。前面に出されると、逆に違和感を持たれてしまう。それよりも「お客様のこういう課題にお役に立てます」という領域をPRしたほうがいい。結果的にあとから「実はシングルマザーの方が担当していました」と知っていただく形が、自然だと考えています。
実は創業当初、経営者の方々にプレゼンするときは「シングルマザーBPO」と言っていた時期もあるんです。でも、それだとむしろ広がりを鈍化させてしまう。出す・出さないは、意識して選んでいます。

稼げるようにはなっても、やりがいがなかった
そもそも、起業しようと思われたきっかけから伺えますか。
学生の頃はサッカー選手になりたくて、ずっとそれだけをやっていました。結局なれずに終わって、悔しかったんです。それなら次は事業で勝負しよう、事業家になろうと。社会人になる前から、いつか起業するつもりでいました。
ただ、何をやりたいかは何も決まっていませんでした。そこで自己分析をしてみたんです。これまで一番嬉しかった瞬間はいつだったかと振り返ると、人の役に立てたとき、社会のためになったと実感できたときでした。それで社会問題を解決している人たちに憧れるようになって、ソーシャルビジネスの情報を集め始めました。最初に見たのは、ボーダレス・ジャパンさんの取り組みだったと思います。
とはいえ、いきなりその領域に飛び込んだわけではありません。まずは3年間、法人営業をやりました。営業の力がついて「これで食えるな」と思った時点で、一旦得意な領域で独立したんです。結構順調に稼げてはいました。でも、やりがいはないなと思ってしまって。そこで、自分はもともと何をやりたかったんだっけと内省したんです。やっぱり社会問題を解決したい、ソーシャルビジネスをやりたい、と。
そこからすぐ起業ではなく、NPOでも活動されていますね。
営業のフリーランスをやりながら、NPOでも働く形で4年ほど活動しました。私はその領域をまったく知らなかったので、本当に自分がやりたいことなのかを確認したかったんです。人が足りていないところに力添えできるなら嬉しいな、という気持ちもありました。
特定非営利活動法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ さんでは、就労支援です。LPIC(Linuxの技術力を認定するITインフラ系の資格)を取得して未経験からインフラエンジニアを目指そう、というプログラムを企画から運営まで任せていただきました。もう一つのNPO団体さんではシェルターの事業で、本当に困っている状態の方に生活していただける環境をつくる。お子さんも一緒ですから、保育的な支援もしながら伴走していく活動でした。
働けるのに、働けていない。だから”支援”ではなく”事業”にしました
そのままNPOで働くのではなく、また独立されたのはなぜですか。
就労支援に関わる中で、活躍する場がないだけで働けていない方がたくさんいると知ったからです。
スキルがあって、想いもあって、仕事に対する向き合い方も真面目です。それなのに、なかなか正社員にはなれない。時間的な制約があったり、お子さんの習い事の送り迎えがあったりすると、正社員にはなれませんと言われてしまう。それを見たときに、これはちゃんと事業として解決できる領域なんじゃないか、と思いました。
もう一つ理由があります。私がやろうとしていることは、経済的な合理性の中で解決できる問題なんです。もちろん、それでは救えない部分もあって、そこはどうしてもNPOが必要な領域です。逆に言えば、我々がこれをNPOとしてやってしまうと、寄付がなくても回せる価値あるお金がこちらに流れてきてしまう。全体最適で考えると、それは良くないと思っています。
数ある社会課題の中で、子どもの貧困に関心を持たれたきっかけは何だったのですか。
子どもの貧困を取り上げたNHKのドキュメンタリーです。経済的な理由で部活動を諦めないといけない、高校でバスケットボールをやりたいのに諦めるしかない。そういう場面が出てきました。
私はサッカーに打ち込んできた人間ですから、好きなことに全力で取り組める時間がどれだけ大きいかは、身をもって知っています。プロにはなれませんでしたが、あの時間があったから今の自分がある。それが、本人の努力とはまったく関係のないところで断たれてしまう。これは由々しき問題だなと思いました。
ですので、私が一番やりたいのは子どもの貧困の解決です。その手段として、貧困率の高いシングルマザーの方の就労を考えている、という順番なんです。
小原さんご自身は当事者ではないですよね。周りから「なぜ?」と聞かれることはありませんか。
めちゃくちゃ聞かれます。そして、答えるのが一番難しいところでもあります。
大きな原体験があるわけではないんです。ごく普通の環境で育ちましたから。ただ、自分の幸せがここにあるという感覚は、はっきりあるんですよ。社会の役に立てているという実感が得られることが、私にとって一番嬉しい瞬間なんです。
お金があっても、ある程度から先は幸せに直結しない。それよりも、自分が関わった事業で子どもが健全に成長しました、と見られることのほうが幸せです。だから、結構利己的でもあるんです。自分がそっちのほうが好きだから、やっている。
この価値観は、たぶん親の教育です。といっても、言われたのは「人に優しくしなさい」ということだけなんですけどね。だから、大きな原体験は必ずしも必要ないと思っています。「なんとなくかっこいいな」「そっちのほうがいいな」という感覚から始める人が増えたほうが、世の中は変わるんじゃないでしょうか。

こじんまりとは、やらない。追いかける数字は「子どもの貧困を何人解決できたか」
事業を進めるうえで、これは外せないという軸はありますか。
一つは、子どもの貧困の問題を解決するということ。ここは変えないと思います。
もう一つは、インパクトです。こじんまりやるのではなく、どれだけ大きく拡大できるかを大事にしています。逆に、手段にはこだわっていません。将来的にNPOをつくる可能性もあります。提供するソリューションによって、それに合う器は変わるはずですから。
そのインパクトを何で測るかというと、シンプルに、子どもの貧困を何人解決できているか、です。働いてくださっている方に、当社に来る前と現在の収入をお聞きしてデータを取っています。自己申告ではありますが、「収入が20%以上増えました」といった形で把握しています。
21名の方は、どんな働き方をされているのですか。
完全フルリモートで、シフト制です。地域は全国各地、北海道から九州までいらっしゃいます。8割ほどの方が正社員で、業務委託だと思われることが多いのですが、そうではないんです。
工夫しているのは、住んでいる場所を問わないこと。それからシフト制にして、日中に中抜けができるようにしていることですね。家事の合間に入って、また仕事を再開できる。有給休暇も1時間単位で取れるようにしています。一般的な会社だと、お子さんの行事のたびに半休や1日休みを取ることになって、その分の収入が減ってしまいますから。
どんな方が応募してこられるのですか。
ホームページからの直接応募と、しんぐるまざあず・ふぉーらむ さんの会員向けメールマガジンでご案内いただくパターンがあります。
在宅でちゃんと経済的に自立したい、職種は問わない、という方が多いですね。年齢層は30代後半が中心で、平均すると40代前半くらいでしょうか。
収入でいうと、もともと時給は最低賃金くらい、1,100円ほどだった方が多いです。当社は今1,600円ですので、1.5倍ほどにはなります。そこに賞与も加わります。
「ここに来なければ、生活保護を受けようと思っていました」
実際に働いている方からは、どんな声が届いていますか。
よくいただくのは、「ここに来なければ生活保護を受けようと思っていました」という声です。
生活保護を受けること自体が悪いわけではないのかもしれません。でもご本人としては、それはやっぱり選びたくなかった。そこから生活が崩れていくんじゃないかというのが怖かった、と。その方は今、4〜5年ほど働き続けてくださっています。
在宅で働けることは、やはり大きいのだと思います。たとえば、お子さんが不登校になってしまうケースがあります。そうなると家に一緒にいてあげないと生活が成り立たない。リモートで働きたいという理由で来てくださって、活躍いただいている方もいます。
運営される側は、何名でやられているのですか。
私のほかに2名です。バックオフィス周り全般を担当してくれている方がいるのですが、その方はもともとシングルマザーだった方なんです。想いにも共感してくださっていますし、背景の知識もある。バックオフィスは全部やってくれています。

2年後に100名、その先は数万人へ
今後の目標を教えてください。
一旦、2年後までに100名です。
そこから先、数万人規模にするにはどうしたらいいんだろうというのは、ずっと考えています。まだ固まってはいません。母子世帯は日本に約120万世帯あって、ひとり親世帯の貧困率は4割を超えると言われています。支援を必要としている方が50万人ほどいる計算ですから、数万人まで届けば、かなり大きなインパクトを与えられたと思えるかなと。
そのための日々は、地道な営業です。テレアポをしたり、経営者の交流会に出たり。企業様の開拓と、シングルマザーの方の集客・教育。この両方を回していくことが今の中心です。
業務の領域も、広げていかれるのでしょうか。
そこは考えています。一つは、ブルーカラーやエッセンシャルワーカーの領域での就労支援です。AIに仕事が代替されていく中で、取って代わられない仕事の領域はもっと広げられると思っています。介護なのか、ホテル清掃なのか、看護なのか。今いろいろと情報収集をしているところです。ただ、労働環境が厳しい職場も少なくありませんから、そこをどう担保しながら働きやすく、ちゃんと稼げる形にするか。時間はかかりそうですが、視野には入れています。
もう一つは、ラウンダーという仕事です。地域のスーパーや小売店をママさんが回って、他社はこういうポップアップを出しているとか、店長さんはこう話していたとか、そういった情報をメーカー様にフィードバックする。すごく人手が足りないと聞いています。地域を回り、コミュニケーションを取って情報を集める。フィジカルが必要な仕事ですから、なくならないだろうと考えています。地方で人が必要な仕事ですので、自治体と組めると面白いですよね。
そしてもう一つ、政策に訴えかけていくことも必要だと思っています。
政策というと、どういうものになるのでしょう。
就労支援の分野でいうと、高等職業訓練促進給付金という制度があります。看護師や保育士などの国家資格を取るために、2年ほど学ぶ間の生活費を国が支援する仕組みです。
ただ、2年は長い。途中で離脱してしまう方も多いんです。それをもっと短期に、たとえば3カ月で学べて費用は国が賄います、という形にできないか。営業のように、資格は必要ないけれどスタートラインには立てる仕事まで広げられれば、可能性は大きく広がると思います。
もっと言えば、当社が今対象にできているのは、ある程度働ける準備が整っている方です。支援を必要としている50万人ほどのうち、上位の半分、30万人くらいというイメージでしょうか。そこから先の方には、まだアプローチできていません。より福祉の領域に入っていく必要があるので、そこでも何かできることがあればと思っています。
働く方のお子さんが大きくなっていく。その姿を見られるのが楽しみ
最後に、これは伝えておきたいということがあれば教えてください。
一緒に事業をつくる仲間を採用したいと思っています。シングルマザーの方でなくても構いません。
セールスから入っていただいて、そこから事業開発に関わったり、経営に近いところをやっていただいたり。ハードワークではありますが、その分、成長もしていける環境だと思います。社会に貢献できる事業をやりたいという人は、言わないだけで実はたくさんいると感じています。そういう方と一緒に、この事業を大きくしていきたいです。
サッカー選手を目指していた頃に描いていた人生とは、まったく違う方向に来ました。でも今振り返ると、この道でよかったと思っています。これから、働いてくださっている方のお子さんが大きくなっていく。その姿が見られるのは、本当に楽しみです。
「支援だから」ではなく、「戦力になるから」選ぶ
小原さんが選んだのは、社会性を掲げて共感を集める道ではなく、サービスとして選ばれ続けることで雇用を増やしていく道でした。
経理やインサイドセールスをアウトソースすることが、そのまま子どもの貧困を一人分ずつ減らしていく。
発注する側にとっては、これ以上なく取り組みやすい社会貢献の形かもしれません。
現在、一緒に働く方を募集中とのこと。
一緒に事業をつくりたいという方は、ぜひ下記をご覧ください。


