前回の記事では、水橋保寿堂製薬「日本一の美肌プロジェクト」により新たに発売されるオールインワン・ミスト「This 1(ディスワン)」のコンセプト設計の現場をお伝えしました。「なぜこのデザインなのか」「何を信じてこのブランドをつくるのか」──そこで問われていたのは、ブランドの思想でした。

今回問うのは、その先です。「誰に届くのか」「どうすれば届くのか」

この日の発表会には、前回から引き続き参加するインターンに、新たに加わったメンバーも参加し、6人が集まりました。関わる輪が少しずつ広がりながら、プロジェクトは前に進んでいます。

「モノの差」だけでは届かない時代に

水橋保寿堂製薬 担当 村井様

モノとしての差が、正直なかなか付けることが難しい。今の世の中は、もうほとんどの会社がいいモノを作れる状態にはなってます。社員ではない、研究者ではない人たちが集まって考えて作るというところに価値を感じる人たちに使ってもらえるといい。いい化粧品になると思っています。

品質で差別化できない時代に、何がブランドの価値になるのか?その問いへのひとつの答えが、このワークショップでした。村井さんの言葉は、商品の中身だけでなく、誰が・どう関わって生まれたのかという背景までもが、ブランドの価値になるという考え方です。

今回の発表会では、各自が事前にターゲット像や届け方を調査・設計したうえでプレゼンする形をとりました。感想を聞く場ではなく、「このブランドは誰のものとして育っていくべきか」を自分の言葉で描く場です。

それぞれの視点で描いた「届け方」

6人の発表に共通していたのは、「富山ブランドだから」という理由だけでは人は動かない、という前提でした。では何が人を動かすのか。それぞれが異なる答えを持ち寄りました。

「誰にターゲットを定めるか」「富山という文脈をどう使うか」「どのようなコミュニケーションで届けるか」──その軸への答えが、6者6様に交差していました。

ターゲットをどう設定するか

黒田さん

化粧品業界は、価格訴求と成分訴求が飽和して、差別化が難しいレッドオーシャンにある。また、同棲しているカップルがコスメをシェアするみたいな市場が成長している。

当初の製品想定としてあった「ボーダレスな商品」というキーワードを具体的な使用場面へと更新するこの視点は、プレゼント需要にもつながる案となりました。

他にも「化粧品は"なんとなく"選ぶ人も多い。詳しくない人でも直感的に手が伸びる空気感を設計することが、広い層へのリーチにつながる」(北村さん)、「どんな人に」ではなく「どんな瞬間に使いたくなるか」を起点に設計する発想で「ジムや屋外活動後の使用シーンを起点にした」(小澤さん)など、ターゲットへのアプローチは多様でした。

「富山」という文脈をどう使うか

富山出身で19年間この土地で育った木下さんが提示したキャッチフレーズは、「曇りの富山から肌に光を」でした。

木下さん

富山県民としても、ただの曇りが誇れるものに変わるかなと思いました

北陸の曇り空や、しっとりとした空気──多くの人が"マイナス"として捉える気候を、ブランドの美意識の起点に変える発想です。富山を「説明」するのではなく、「感じてもらう」という届け方でした。

対照的な視点を立てたのが、富山の外から来た学生です。

香河さん

富山県の要素というのは、人気になった後からでもくっついていくものというか。はじめから『富山のものです』と打ち出すより、後からついていくものだな、と考えました

まず「この化粧品がいい」と感じてもらい、その後で「富山産だった」と知る──地域を知らない人にとって、その順番が自然だという考え方。同じ「富山」を扱いながら、内側と外側から全く異なる届け方が生まれていました。

担当デザイナー

富山出身の学生が口にした「曇りの富山」という言葉は、住んでいる人だから出てくる言葉だなと思いました。若者は『富山産だから』という理由だけでは動かないというのはその通りです。成分や機能を冷静に見極める今の若い消費者にとって、地域ブランドであることは信頼の裏付けにはなっても、購入の決定打にはなり得ません。良い視点だなと思いました。

どんなコミュニケーションで届けるか

同世代ならではのプロモーション発想も複数出ました。

ハッシュタグを軸にしたUGCフォトチャレンジ。ユーザー自身が富山の情景を投稿することで、広告らしくない形で共感が広がる仕組みです。気候という日常の変化をブランドへの想起と結びつける、この土地を知る人間ならではの発想でした。

佐藤さん

発売前に期待値を最大化していく必要がある。発売前後のフェーズを明確に分けて、発売前は認知を育て、発売後は富山にちなんだリアルな体験でファンとの関係を深めていく

製品を「使う」だけでなく、プロジェクトを「応援する」関係性をどう育てるかという長期的な視点。

気候に合わせた季節施策や、SNSのコミュニティを巻き込む企画など、デジタルと地域のリアルを組み合わせた戦略もありました。発売前後で施策フェーズを分け、認知からファン化までを設計した提案もあり、ブランドとの関係性を段階的に育てる視点が示されました。

共創が積み上げるもの

木下さんが「ただの曇りが誇れるものに変わる」と語ったのは、マーケティング用語ではありません。19年間この土地で育った人間が、自分の地元を誰かに届けようとした言葉でした。黒田さんが市場分析から入ったのは、本気でこのブランドの未来を考える場として向き合っていたからです。

「社員でも、研究者でもない」という立場だからこそ、生まれた言葉がありました。

担当デザイナー

学生たちのプレゼンテーションはレベルが高く、多くの気づきがありました。特に品質・機能訴求の重要性、カップルシェアという新しい市場視点、気候を活かしたプロモーション戦略、ブランドの世界観を視覚に落とし込む方向性など、とても新鮮な発見がありました。

水橋保寿堂製薬 担当 村井様

役割をしっかり分けて、もう少し解像度を高く考えると、本当に実際のマーケティングに使えるような内容まで出てきました。

学生のプレゼンに対しての感想ではなく、この場で生まれたものが“実装可能なアイデア”として機能していたことを示しています。

美肌プロジェクトの展望

富山の素材・水・製薬技術・若者の感性。それぞれが重なることで、「誰かひとりでは作れなかったもの」が生まれていきます。「日本一の美肌プロジェクト」はこれからも、さまざまな立場の声を積み重ねながら、地域から全国へと届く化粧品づくりを続けていきます。

今回の発表が示したのは、「地域ブランドだから選ばれる」ということではなく、「品質・共感・コミュニティ」の3つを丁寧に設計することの視点でした。

その気づきは、このプロジェクトが向かう方向を、より具体的にしていきます。 今後も引き続き取材を続け、プロジェクトの想いに迫ります。

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