

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
使い終わった粘着テープの巻心――。 一見、ただの“ごみ”にも思えるこの小さな紙筒から、ニチバン株式会社の挑戦は始まりました。
「セロテープ®」で知られる同社が2010年にスタートした「ニチバン巻心ECOプロジェクト」は、回収した使用済み粘着テープの巻心をリサイクルし、国内外の森づくりへとつなげるサステナビリティ活動です。
これまでに集まった巻心は累計600万個以上。いまや全国の学校や企業を巻き込み、社員のエンゲージメントまでも育てる大きなムーブメントへと成長しています。
15年にわたりこの活動を繋いだプロジェクトの、現在の担当者・経営企画室 コーポレートコミュニケーション部の近藤さんと石田さんに、その歩みと想いを伺いました。
取材・編集:gooddo編集部
「捨てられる巻心」が育てる森。ニチバンの“貼る”哲学から生まれたエコ活動
まず、ニチバンさんの事業概要について教えてください。
当社は粘着テープの製造・販売を中心に、「人に貼るテープ」と「ものに貼るテープ」という2つの軸で事業を展開しています。前者には絆創膏の「ケアリーヴ™」や鎮痛消炎剤の「ロイヒつぼ膏™」、後者には文房具の「セロテープ®」や野菜結束用の「たばねら™テープ」などがあります。
皆様の生活に「ぴったり寄り添う」製品を、BtoCからBtoBまで幅広く展開しています 。

企業としてのサステナビリティに関する取り組みについてお聞かせください。
まず製品そのものの環境配慮から始まっています。例えば、弊社の主力製品である「セロテープ®」は、実はプラスチック製ではなく、木材チップを原料とするセロハンや、天然ゴム、天然樹脂といった、植物由来の素材から作られている環境に優しい製品です。

「セロテープ®」が植物由来...!知りませんでした。
あまり知られていないのですが、実はとても環境に配慮した作りになっています。
また、当社の基本理念は「私たちは絆を大切に、ニチバングループに関わるすべての人々の幸せを実現します」です。
この考えを体現するサステナビリティ活動の一つが、2010年に始まった「ニチバン巻心ECOプロジェクト」です。
テープを使い終わると、中心に紙製の巻心が残ります。これまでは“ごみ”として捨てられていましたが、「この巻心にもまだ役割があるのでは?」という気づきから始まりました。皆さまから回収した巻心はダンボールにリサイクルし、その収益とニチバンからの寄付金を合わせて国内外の植林活動に活用しています。国内では広島県廿日市市にて、「エリートツリー」という品種の杉の木を植林しています。海外では、環境NGOのイカオ・アコにご協力いただき、マングローブの植林活動を行っています。
▼ニチバン巻心ECOプロジェクトの流れ

▼2024年度 広島県廿日市市での植林

▼フィリピンでの植林

子どもたちの学びと、企業の共感が生む「持続するエコ」
プロジェクトを進める上でのこだわりや、大切にされているコンセプトについて教えていただけますか。
はい、このプロジェクトで私たちが大切にしていることは、大きく二つあります。
一つ目は、「幅広い方々に、気軽に参加いただける仕組みづくり」です。個人の方から学校、企業まで、どなたでも参加しやすいように、巻心は一個からでも受け付けています。また、資源再利用の観点を大切にするため、ニチバン製品だけでなく他社メーカーの巻心も対象にしています。
結果的に、個人・学校・企業といった様々な方に参加いただいています。初年度に集まった巻心の数は7.4万個でしたが、昨年度は47万個を超え、全国から1,201の団体と295名の個人の皆様が参加してくださいました。
▼第1回からの推移

二つ目は、「量だけでなく、継続性を大切にすること」です。もちろん、たくさんの巻心が集まることは素晴らしいのですが、それ以上に一度参加してくださった方に、長く活動を続けていただくことを大切にしています。そのために、プロジェクトの内容を少しずつリニューアルしながら、常により良い活動を目指して改善を続けています。
参加してくださる皆様との「絆」を大切にしながら、この輪を未来へ繋げていきたいと考えています。

実際にプロジェクトに参加された学校や企業、そして活動を推進されている皆様からは、どのようなお声が届いていますか?
はい、様々な立場の方から嬉しいお声をいただいています。
まず、小学校へは4年生を対象に「ゴミの分別から考えるわたしたちにできる地球にやさしいこと」をテーマに出前授業を行っているのですが、参加した小学生からは、「自分たちにできることが地球を守ることにつながるのを学んで、環境を考えるきっかけになった」という感想をいただきます。また先生方からは、「生徒が自主的に考えて動くきっかけになっている」と評価していただくこともあります 。
企業の方からは、「オフィスで当たり前に捨てていた巻心をエコにつなげることができ、参加しやすくて続けています」といったお声をいただきます 。

「うちの会社、いいな」社員の心を動かす“自分ごとのサステナビリティ”
社員の皆さんの反応はいかがですか?
活動を前向きに捉えてもらっています。
実際に植林活動に参加した社員が、植林活動を通じてニチバンが取り組んでいるサステナビリティ活動と社会とのつながりを肌で感じることができた」と、活動の理解をより深めてもらっています。また、出前授業では小学生との交流を通じてニチバンの製品が幅広い方々の役に立っていて、ニチバンの活動を伝えることで自身の仕事のモチベーションアップにつながったとの声もあります。
社員自身もこのプロジェクトを通じて環境や社会とのつながりを強く感じており、それが活動を続ける大きな力になっています。
▼2025年度 植林活動

お話を伺っていると、社員の皆様が一体となって活動されている印象を受けます。
ありがとうございます。以前はサステナビリティ活動が特定の部署の業務という側面がありました。しかし、今年度から「エンゲージメントツアー」という新しい試みを始めたことで、その状況は大きく変わりつつあります 。
エンゲージメントツアーは、これまでコーポレートコミュニケーション部が行っていた「出前授業」や「植林活動」といったサステナビリティ活動に部署の垣根を越えて、社員が「手上げ制」で誰でも参加できるようにしたものです。他にも工場や研究所のツアーなど社員間の理解を深めるツアーも企画しています。この取り組みが実現した背景には、現在推進している中期経営計画の大きな柱として、「人的資本経営」を掲げていることがあります 。その中で「従業員の健康とエンゲージメントの向上」を大きな目標としており、会社全体としてエンゲージメントを高めることが重要な経営課題と位置づけられています 。
このように、経営トップからの明確な方針と、現場の希望があり、全社を挙げて「自分たちの活動」として取り組むという流れが生まれました。このツアーは、そのための大切な一歩となっています 。
絆でつながる未来へ──巻心から広がる20年・30年のプロジェクト
このプロジェクトの今後の展望についてお聞かせください。
はい、この活動を20年、30年と続けていくために、社外と社内の両面からプロジェクトを深めていきたいと考えています。社外的には、継続性を重視しつつ、参加者の皆様に楽しんでいただけるような新しい施策を実行していきます。また、より多くの方にご参加いただけるよう広報活動を積極的に行っていきます。
一方、社内では、出前授業や植林活動に誰でも自由に参加できる仕組みを整えましたので、社員自身が自社のサステナビリティ活動を“自分ごと”として体感し、社会とのつながりを感じる機会にしてほしいと思っています。
将来的には、ニチバン単体にとどまらず、グループ会社全体を巻き込んだ活動へと発展させていきたいと考えています。
最後に、この記事を読んでくださっている読者の皆様へメッセージをお願いします。
この「ニチバン巻心ECOプロジェクト」は、巻心を集めてくださる参加者の皆様をはじめとして多くの方々のご協力がなければ15年以上続けられませんでした。皆様の日々のご協力に深く感謝いたします。
普段何気なく捨ててしまうテープの巻心が、実は国内外の森を育て、環境を良くしていく力を持っています。
もしご家庭やオフィスで使い終わった巻心が出たときには、ぜひこのプロジェクトを思い出してみてください。巻心1つからでもご参加いただけますし、メーカーも問いません。
皆様からいただく一つひとつの巻心が、私たちの活動を未来へつなぐ何よりの力になります。
皆様のサステナビリティ活動の1つにニチバン巻心ECOプロジェクトをご活用いただけたら嬉しいです。



