

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
「健康なくして持続可能性は語れない」──そう語るのは、大阪・関西万博2025に出展するアンゴラパビリオン館長のアルビナ・アシス・アフリカーノさん。
テーマは「健康のための教育」。都市と地方で大きな格差を抱えるアンゴラが、持続可能な未来に欠かせない基盤として選んだキーワードです。伝統的な薬草療法と最新の医療技術を共存させた展示を通じ、健康と教育の大切さを来場者に体感してもらいます。
さらに、広大な国土を支えるインフラ整備、次世代への「倫理・教育・仕事」という価値観の継承など、国全体の挑戦がこのパビリオンに凝縮されています。未来世代に伝えたい想いと、万博を通じて描く展望を伺いました。
取材・編集:gooddo編集部

健康と教育を未来の基盤に
アンゴラパビリオンのテーマについて教えてください。
テーマは「健康のための教育」です。都市と地方で医療や教育の環境が大きく異なるアンゴラでは、子どもの生存率や学習機会に直結する問題があります。だからこそ、現実を隠さずに伝えたいのです。
都市部では新しい病院の建設が進んでいますが、地方では一次医療を担う保健所が人々の命を守る最初の場所になります。学校のない地域も多く、教室を建設することが急務です。
健康と教育は、人が人らしく生きるための最も基本的な権利であり、持続可能な社会の土台。その重要性を多くの人に体感してもらうことを目指しています。
来場者に向けた展示は、単なる医療紹介にとどまりません。都市と地方の現実を比較し、社会の格差がどのように生活を左右するのかを目で見て学ぶことができます。「格差の現実を知ることこそ、共に未来を考える第一歩」だからこそ万博という舞台で世界中の方々に考えてほしいテーマなのです。
今回なぜ、大阪・関西万博に参加することを決めたのでしょうか?
私にとって大阪万博は9回目の参加となります。2005年の愛知万博から始まり、20年近くにわたり世界各地の万博でアンゴラの姿を伝えてきました。各地で「社会課題をどう伝えるか」をテーマに展示を続けてきたんです。
日本とアンゴラの外交関係は非常に強く、参加することは私にとって「義務」でもあります。もちろん、大統領に任命されて務めていますが、ただの義務感ではありません。
万博は国際社会の中で学び合い、共創するための大切な舞台です。ここで日本企業や人々と出会い、社会問題の解決につながる新しい関係を築くことを心から期待しています。
アンゴラが重視している価値観や社会的課題は何ですか?
アンゴラが今まさに取り組んでいるのは、「社会問題の解決」です。
特に医療と教育の格差は大きな課題であり、都市と地方の差を埋めるためにインフラ整備を進めています。道路、水、電気の供給が改善されることで、病院や学校が建設され、暮らし全体の質が向上します。
- 都市部では新しい病院を建設
- 農村部では一次医療を担う保健所を整備
- 学校のない地域に教室を建設
- 水や電気といった基盤インフラを改善
これらはすべて「人間らしい生活」を保障するための取り組みです。
私は未来世代に「倫理」「教育」「仕事」という3つの価値観を残したいと思っています。人が人らしく生きるために不可欠なものです。持続可能性とは、次の世代に“より良いもの”を渡すこと。その信念が、私のすべての行動を支えています。

ご自身が今回のプロジェクトにかける想いや動機を教えてください。
私は幼い頃に父を亡くし、母を支えながら育ちました。高校を卒業してからは、働きながら学びを続け、その後は自ら教える立場となり、教育分野に携わるようになりました。
その後、大学では科学工業エンジニアとして9年間学び、医療の研究所で分析業務に携わりました。さらに石油精製所で働き、国営石油会社を経て、石油大臣として6年間、国のエネルギー政策を担いました。短期間ではありますが工業大臣も務め、その後は大統領府で地方経済発展に尽力しました。
外交分野では大使就任の話もありましたが、家族のことを考えて海外赴任は選ばず、代わりに2005年の愛知万博から世界各地の万博に携わり、20年間コミッショナー・ジェネラルを務めています。現在は大統領顧問として、持続可能な社会づくりに力を注いでいます。
私が一貫して大切にしてきたのは、「次の世代に何を残せるか」という問いです。教育も、健康も、そして働く機会も、未来世代の人々が人間らしく生きるための基盤だと信じています。だからこそ今回、アンゴラ・パビリオンのテーマに「健康のための教育」を掲げました。
都市と地方で大きく異なる医療・教育環境を、隠さずリアルに伝えることで、アンゴラが抱える課題を知っていただきたい。そして、伝統的な薬草療法と先端医療の双方を展示し、古いものと新しいものを共に活かして未来を切り開いていくアンゴラの姿を見ていただきたいのです。
万博は、国同士が学び合い、未来を共創する場です。日本とアンゴラは外交的にも強い結びつきがあり、この大阪万博はその関係をさらに深める大切な機会になると考えています。私自身、このプロジェクトを通じて、多くの方々と出会い、社会課題の解決につながる協働が生まれることを強く願っています。

古い知恵と新しい技術が調和する
パビリオンで表現されているサステナビリティの要素や工夫を教えてください。
展示では「伝統と革新の共存」を大切にしています。薬草を使った伝統的な療法と、最新の医療機器やオンライン診療といった現代技術。これらを対立させるのではなく、共に活かす姿勢を表現しました。
来場者からは「古い知恵と新しい技術が調和し、未来を共に形作っている」といった感想をいただいています。コロナ禍でアンゴラの死亡率が比較的低かった背景には、こうした伝統医療の存在もあったのではないかと考える人もいます。
さらに、展示の一角では女性の活躍も紹介しています。地域コミュニティを支え、教育や保健活動を担う女性たちの姿は、持続可能性の原動力そのものです。
来場者や関係者から寄せられている印象的な声はありますか?
アンゴラパビリオンを訪れてくださった来場者や関係者からは、本当に多くの感想をいただきました。とても印象的だったのは、「伝統医療と先端医療を同時に見せているのが新鮮だった」という声です。薬草を使った昔ながらの療法と、最新の医療機器やオンライン診療が同じ空間に並んでいることに、多くの方が驚かれていました。
また、「地方の子どもたちに教育を届けるという姿勢に心を動かされた」という感想も寄せられました。私たちが伝えたい「健康と教育こそ持続可能性の基盤」という想いが、来場者に届いていると感じられる瞬間です。
さらに、「女性の活躍を前面に出している点が未来を変える力になる」という評価もいただいています。地域コミュニティを支える女性たちの姿は、展示の中でも強い共感を呼んでいます。
こうした声は、私たちにとって大きな励みであり、展示が単なる情報発信ではなく「人と人の対話」を生んでいる証だと受け止めています。

未来世代にどのような責任やメッセージを伝えたいですか?
未来世代に伝えたいことは、とてもシンプルで、そして重い責任を伴うものです。
私は常に「より良いものを次の世代に残す」ことを意識してきました。これこそが私にとってのサステナビリティの本質です。
まずは 持続可能な経済。石油に依存するだけではなく、農業や環境分野へ投資し、多様な産業を育てること。
次に 持続可能な環境。水や電気といったインフラをすべての人に届け、安心して暮らせる基盤を整えること。
そして 持続可能な社会。教育や医療をすべての人が享受できる社会を築くことです。
未来世代に強く伝えたいのは、自分たちの一つひとつの行動が未来を形づくるということです。だからこそ、私は「倫理・教育・仕事」の3つを柱として大切にしてほしいと願っています。未来世代がこの3つを軸に歩んでいくなら、アンゴラも、アフリカも、そして世界全体も、より良い方向へ進んでいけると信じています。
アフリカは、原材料を供給するだけの大陸ではない
万博終了後、この取り組みをどのように未来につなげたいと考えていますか?
万博を「一過性のイベント」とは決して捉えていません。私にとって万博は、未来へ投資する大切な機会です。
この会期を通じて得られる知見やネットワークは、アンゴラの教育・医療・インフラ整備に確実につなげていきます。展示で発信した「健康と教育の重要性」は、その後の国の政策や地域の取り組みにも反映されるはずです。
同時に、この取り組みは経済の持続可能性とも密接に関わっています。私は石油大臣として国のエネルギー政策に携わった経験から、GDPを押し上げる成長は石油だけに依存してはならないと強く感じてきました。教育や医療、人材育成への投資こそが、長期的には国の競争力を高め、持続的にGDPを伸ばす基盤になると確信しています。
また、ここで出会う日本をはじめとする各国のパートナーと共に、農業や環境分野での新しい協力を広げていきたいと思っています。石油に依存しない未来を描くためには、国際社会との連携が不可欠だからです。
私が願うのは、アンゴラだけでなく、アフリカ全体がより持続可能で人間らしい社会へと進んでいくこと。そのために、この万博で築いたつながりを未来へと継続させていきたいのです。

日本の読者に伝えたいメッセージをお願いします。
私は、日本の若い世代の方々に特に伝えたいのです。アフリカは決して「原材料を供給するだけの大陸」ではありません。人を育て、共に発展していけるパートナーです。アンゴラもまた、石油だけに依存せず、教育や医療、人材育成への投資を通じて、未来のGDPを押し上げる持続可能な社会を築こうとしています。
万博で掲げている「健康のための教育」というテーマには、次の世代により良い社会を残したいという強い想いを込めました。健康でなければ学ぶことも、働くこともできません。だからこそ、教育と健康を両輪にして、人々が人間らしく生きられる未来を目指しています。
日本とアンゴラは外交的にも深い関係があります。これからは、教育・医療・環境・農業といった分野で、さらに協力を広げていきたいと願っています。皆さんにも、ぜひアンゴラを「共に未来をつくる仲間」として見ていただきたいと思います。
そして最後に──ぜひパビリオンに足を運んでください。ここには「ここでしか味わえない体験」があります。伝統と先端が共存する展示を通じて、アンゴラの挑戦を感じてもらえたら嬉しいです。
ここでしか得られない「学びと気づき」が、あなた自身の次の一歩につながるはずです。ぜひ会場で、アンゴラの挑戦と未来を体感してください。