「グリーンエネルギーへの移行は、言葉だけでは実現できません。だからこそ、私たちは“すでに行動を始めている”のです。」

そう語るのは、大阪・関西万博2025のUAE(アラブ首長国連邦)パビリオンで来場者を案内するユースアンバサダーのアブドゥッラ・アルスウェイディさん。今回は、パビリオンでガイドをしていただいた内容を、ご紹介させていただきます。

「石油の国」として知られるUAEが、なぜグリーンエネルギーに本気で取り組むのか?太陽光やアンモニア、水素といった次世代エネルギーの導入を、政治的意思と伝統文化の知恵を掛け合わせながら進める姿は、世界に向けた“現実的な挑戦”そのものです。

さらに、2011年の東日本大震災では、UAEが“ある決断”を下し、日本を支えました。その背景には、両国の深い信頼関係がありました。

取材・編集:gooddo編集部

UAEパビリオンのサステナビリティ体験

このパビリオンは“オアシス”をイメージしてつくられています。建物の柱は200万本のナツメヤシの廃材で組まれ、私たちの伝統的な家と同じく、枝と葉と紐だけで成り立っています。

たとえば、ナツメヤシの葉を編んでつくるマットは、私たちの暮らしの中で日本でいう「ござ」のような役割を果たしてきました。砂漠の地での食事や休息の場に敷かれ、使い終わったら畳んで車に積み、また次の場所へと持ち運ぶ。そんな“持続可能な日用品”として、今も現地の家庭で日常的に使われています。

ナツメヤシは日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、「デーツ」という名で知られる甘くて栄養価の高い果実を実らせる木です。最近ではドライフルーツとしてスーパーなどでも見かけるようになり、「おやつに食べたことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。

UAEでは、このデーツは”おもてなしの象徴”として深く根付いています。大切なお客様を迎える際には、必ずと言っていいほど、デーツとともにコーヒーを一緒にお出しします。甘みのあるデーツと、香り高くスパイスの効いたコーヒーを一緒にいただくことで、心を解きほぐす──日本でいう和菓子と抹茶の役割です。

パビリオンの中に入ると、枝の香り、風に揺れる葉の音、水のせせらぎ──自然の五感が訪問者を包み込みます。リアルなオアシス体験を生み出してくれました。

「サステナビリティ」という言葉を使わなくても、私たちは昔からそうした暮らしを自然に営んできたのです。

来場者はこの空間で、単に展示物を眺めるだけではなく、空間全体に浸るような感覚を得られるはずです。それは、砂漠の国で生きてきた人々の「無駄を出さない」知恵の蓄積でもあります。

資源国の覚悟。「いつか枯渇する」からこそ、未来を見据える

私たちは“資源が永遠ではない”ことを深く理解しています。だからこそ、政治・産業レベルでエネルギー転換のロードマップを明確に描き、現実的かつ着実に実行に移しています。

たとえば、アブダビの砂漠地帯には3,300万枚の太陽光パネルを設置し、2050年までに国内エネルギーの50%をクリーンエネルギーに転換する目標を掲げています。さらに同年までに、1億本のマングローブを植樹する計画も進行中です。これは日本とも連携しており、沖縄県・石垣島でも共同プロジェクトを展開しています。

UAEの強みは“広大な砂漠”です。森林伐採を伴わずに、自然環境への負荷を最小限に抑えて再生可能エネルギーを導入できるという利点があります。これは、限られた土地の中で太陽光発電の導入に苦慮する日本とは大きく異なる点かもしれません。

アブダビ国営石油会社(ADNOC)が「サステナビリティ分野の先駆者たち」の展示のパートナー。
太陽を追尾するソーラーパネルの形をした24枚のスクリーンで構成されたインスタレーションで、UAEの持続可能性プロジェクトや取り組みに関する情報や事実を紹介しています。

まず二酸化炭素の排出量を抑えた石油エネルギーの開発をしています。なぜなら、「じゃあ今日から全部グリーンエネルギーにしよう!」と急に石油なしにすることはできないですよね?ですから今の石油エネルギーの二酸化炭素排出量を減らすことはとても意義があることです。

また今後の柱として注目しているのが「水素」や「グリーンアンモニア」「ブルーアンモニア」です。これらは世界的にもまだ明確な定義が固まっていない領域ですが、私たちはすでに国家主導で技術投資を進め、実用化に向けたプロジェクトを開始しています。

私たちの姿勢は「グリーンエネルギーへの移行を目指すのは当然。しかし理想論だけでなく、実際に実現できるステップを描くこと」。2023年にはCOP28のホスト国も務め、世界中の国々と協調しながら、段階的移行=“トランジション”の重要性を訴えました。

そう言っていただけると嬉しいです。確かにUAEは“石油の国”というイメージが強いかもしれませんが、私たち自身は長い間「原油はいつか枯渇する」と教えられてきました。

その理解があるからこそ、いま真剣に未来のエネルギーを模索し、投資しているのです。

世界が“どの燃料をグリーンと呼ぶのか”を迷っている今、私たちは問いかけます。「あなたたちの目指す未来は、どれですか?」と。

そうなんです!UAEから初めて原油が輸出されたのは1962年。その相手国を知っていますか?

実は、その相手国が日本だったんです。それ以来、深い信頼関係を築いてきました。

特に印象的なのが2011年の東日本大震災の時。ちなみに私は当時、東京・二子玉川に住んでいましたが、本気で「自分の最期かもしれない」と覚悟したほどでした。

そんな中、UAE政府の指示で、日本に向かっていたわけではなかった3隻の原油タンカーの航路が変更され、ガソリンが“無償で”届けられたのです。

「あれは命令ではなく、“約束”だったんです。何があっても日本のエネルギーを支えるという」

この出来事は、単なる支援ではなく、“国家間の友情の証”として語り継がれています。今でも、日本で使われているガソリンの約4割がUAE由来というのは、あまり知られていないかもしれませんね。

グリーンエネルギーは理想ではなく、設計された現実であるべき

ここは「未来だけを語る場所」ではなく、「過去から未来をつなぐ場所」です。私たちは、枝と葉と紐で家を作り、葉っぱでござを編み、電気を使わないエアコンの知恵も持っていました。だからこそ、“新しいテクノロジー”にも違和感なく入っていけるのです。

「グリーンエネルギーは理想ではなく、設計された現実であるべき」──この思想のもと、UAEは未来に向けて動いています。

UAEパビリオンは、私たちの“家”です。訪れた方が、UAEのサステナビリティを「遠い話」ではなく「自分の暮らしと地続きのテーマ」として持ち帰ってくれたら、こんなにうれしいことはありません。

日本とUAEは、エネルギーでつながってきた“実績”と“信頼”があります。これからはその関係を、さらにクリーンで、持続可能なものへと進化させていけたら──それが私たちの願いです。

UAEパビリオン | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

大地から天空へ—UAEが拓く未来への挑戦 大地に根を張り、天空へと伸びるナツメヤシは、UAEの人々の精神を象徴する証です。イマーシブな空間とマルチセンサリーな体験を通…

いかがででしたでしょうか?

パビリオンを訪れる際は、ぜひユースアンバサダーと話してみてくださいね!通常の解説以上に、UAEの価値観や未来への想いを“人を通して”体感できる、特別な時間になるはずです。

解説:パビリオンの見どころ

UAEパビリオンを彩るエミラティ・ユースアンバサダー

UAEパビリオンでは、UAE出身の若者を中心としたユースアンバサダーが、訪れる人々をあたたかく迎えてくれます。彼らは英語、日本語、アラビア語など7つの言語に対応し、多文化社会としてのUAEの姿や、持続可能な未来に向けた取り組みを自らの言葉で伝えています。

それぞれが異なる背景や専門性を持ちながら、「対話と共創」の精神で来場者と向き合う姿が印象的です。語り口には情熱があり、質問すればするほど深く回答してくれる。ガイドというより、まるで「未来を一緒に考える仲間」のような存在です。

※7つの言語…アラビア語、日本語、英語、韓国語、タガログ語、フランス語、中国語の7言語

「サステナビリティ分野の先駆者たち」の展示のパートナーアブダビ国営石油会社(ADNOC)

アブダビ政府が所有する多角的なエネルギーグルー プで、エネルギー価値連鎖全体にわたって、絶え間なく変化するエネルギー市場のニーズに 責任を持って対応しています。ADNOCは、世界で最も炭素強度が低い石油・ガス生産者の 中でもトップクラスに位置しています。 

2025年大阪・関西万博におけるUAEパビリオンについて

2025年の大阪・関西万博に出展するUAEパビリオンは、「大地から天空へ(From the Land to the Sky)」をテーマに、UAEの伝統文化と最先端技術が共鳴する空間を五感で体験できる設計となっています。

ナツメヤシの廃材を再利用した200万本の柱で作られた建築空間は、オアシスを思わせる静けさと温かみに満ちています。展示では、宇宙開発、ゲノム医療、再生可能エネルギーなど、UAEが取り組むさまざまな“未来への挑戦”がストーリー仕立てで紹介され、子どもから大人まで楽しめる仕掛けが満載です。

館内には、本格的なエミラティ料理を味わえるレストランも併設されており、訪れる人が「文化に触れながら、心からくつろげる場所」としても親しまれています。

2025年4月13日から10月13日までの万博会期中、毎日午前9時から午後9時まで(最終入館午後8時半)一般公開日本とUAEの友好の象徴として生まれたこのパビリオンで、“あなただけの未来”と出会ってみませんか?

▶ 詳細は公式サイトをご覧ください。

UAE Pavilion | Earth to Ether

Earth to Ether is a multisensory journey through UAE's heritage and innovation, uniting cultures to shape a sustainable, thriving future.