「化粧品は、流行の発信地である都会で作られるもの」
そんなイメージがあるかもしれません。
しかし今、日本有数の“薬の街”である富山で、これまでの常識を覆す新しい動きが始まっています。

富山県は、「富山の薬売り」の伝統を持ち、今も医薬品の生産で全国トップクラスを誇る「薬の都」です。しかしこうした製薬技術も、豊かな自然の資源も、地元では「当たり前のもの」として、日常の中に埋もれていました。

また、若年層の肌を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。
強まる紫外線や空調による乾燥など、現代的な生活環境は肌トラブルを招きやすい状況にあります。肌の状態は自己肯定感やQOL(生活の質)にも影響しますが、忙しい日常の中で継続的なケアを行うことは容易ではありません。

この「地域の資源」と「若者の課題」を結びつけたのが、水橋保寿堂製薬です。

日本有数の薬の街・富山で始まった「日本一の美肌プロジェクト」は、新しい富山の誇りを生み出すための取り組みです。

同社が掲げたのは、自社の製薬技術を地域へ還元し、富山の新たな価値を創出すること。そして、そのプロセスに若者を巻き込むことでした。

水橋保寿堂製薬 担当者様

今回のプロジェクトでは、自社だけで完結する製品開発ではなく、実際に使う世代である学生の視点を取り入れることを大切にしました。富山の資源と製薬技術に、次世代の感性が加わることで、地域の価値を新しい形で届けられると考えています。

本連載では、このプロジェクトに関わる企業・学生・地域関係者の視点を通じて、持続可能な社会のかたちを探ります。

未利用資源を再定義する「米ぬか」と「海洋深層水」の可能性

プロジェクトの出発点は、豊かな富山の未利用資源でした。

富山の農業副産物である「米ぬか」は、多くが十分に活用されていませんでした。そこに製薬企業としての技術を掛け合わせ、美容成分として改めて定義しなおしました。さらに富山湾の「海洋深層水」をベースに採用することで、地域資源同士の相乗効果を生み出しました。

完成したのは、オールインワン・ミスト「This 1(ディスワン)」

洗顔後に“ひと吹き”するだけでケアが完了する設計は、若者のライフスタイルに即したものです。複雑な工程を排し、継続しやすいUX(ユーザー体験)を実装することで、「続けられるケア」を実現しました。

そこに、米ぬかや海洋深層水といった資源、そして製薬技術が重なります。
つまりこのプロジェクトは、 「地域資源の再活用 × 製薬技術 × 若者の視点」という構造の上に成り立っており、単なる化粧品開発ではなく「使われていなかった資源が、スキンケアとして生まれ変わる」という視点が貫かれているのです。

若者の視点が“市場適合性”を担保する

どれほど想いを込めた製品でも、市場に受け入れられなければ社会的な循環は生まれません。そこで本プロジェクトでは、企画の最終工程を実際の「ターゲット」である現役学生に委ねるワークショップを実施しました。

ただし、彼らに求めたのは単なる「若者の感想」ではなく、一人のユーザーとして、そして市場を見る一人の「目」として、プロのデザインをチェックしてもらうワークショップです。

検証対象となったのは、5つのパッケージデザイン案。

プロのデザイナーが準備した「富山の象徴的・抽象的な美しさ」を表現した案に対し、学生たちは率直な意見を投げかけました。

「D案は綺麗ですが、色味によってはスポーツドリンクのように見えてしまい、スキンケアとしての所有欲が湧きません」
 「循環のイメージは伝わりますが、肌への具体的なメリットが少し分かりにくいと感じました」

富山のブランド米を象徴した案についても、「普段利用する店舗の棚ではやや大人向けに見え、手に取りづらいかもしれません」と、購買シーンを想定した視点が伝えられました。

象徴性よりも実感値、理念よりも生活導線。

若者の声は、デザインやブランド表現を“社会的意義”から“市場適合性”へと引き戻しました。

担当デザイナー

ワークショップが前提だったので、学生の皆さんが意見を出しやすいよう、5案の方向性はできるだけバラバラなものを用意しました。

興味深かったのは、皆さんそれぞれが自分の好き嫌いを言うのではなく、市場性やこのプロジェクトの意義を捉えながらしっかりと発言されていることでした。

自分以外の性別や年代の方の視点、売り場に置かれた時の独自性。独自性とはつまりこのプロジェクトの軸でもある富山の素材をいかに表現していくか、ということになりますが、私達が普段思いつかないようなフレッシュなアイデアも多々いただけました。

より良いパッケージになるよう鋭意ブラッシュアップ中です!

学生の声を通じて、デザインの完成度だけでなく「売り場でどう選ばれるか」という若者だけではなく様々なお客さんの視点が改めて共有されました。

偶然のきっかけが、地域を想う「当事者意識」に変わるまで

ワークショップ後、富山大学などで学ぶ5人の学生に、参加のきっかけを伺いました。

坂本さん

最初は、有償インターンとして実務経験を積める点に惹かれました。美容業界への関心はありましたが、“地方創生”という言葉は活動を通じて後から実感したものです。広告制作などに関わるなかで、一つの製品が世に出るまでの重みを知りました。

小倉さん

私は富山大学で建築を学んでいます。建築を学ぶ立場として、異なる分野である化粧品のデザインや商品化プロセスに触れてみたいという純粋な好奇心がきっかけでした。

佐藤さん

私は新潟出身で、富山に来て4年目になります。学生生活の最後に、もっと富山という土地について語れるものを持ちたいと思っていたときに、この募集を知りました。

小澤さん

私は大学で地域創造を学んでいます。研究テーマである“地域資源の活用”が実際のビジネスでどう機能するのか確かめたかった。肌荒れに悩んできた経験もあり、化粧品という形で地域活性化に関われる点に魅力を感じました。

北村さん

私は芸術デザイン学科でデザインを専攻しているのですが、地域資源を活かしたものづくりには元々高い関心がありました。私たちが製品開発から深く関わること、そのアクション自体が地元の方々へのメッセージになると思うんです。『あ、この地域を大切に思っている若者がちゃんといるんだな』ということが伝われば、地元の方々もきっと喜んでくれますよね。そのことこそが、このプロジェクトの本当の価値なのかな、と感じるようになりました。

小澤さん

今回の商品は自分たちがターゲットに近いからこそ、『本当にこれが欲しいか?』ということを真剣に考えました。若者は流行に敏感ですし、凝り固まっていない視点から地域の価値を見つけられたらと思っています。

偶然や個人的な興味から始まった参加でしたが、議論を重ねるうちに、製品を「自分たちの街のもの」として語る姿が見られるようになりました。

地道な対話が、持続可能な循環を生む

「地方創生」という言葉は抽象的です。しかし、学生たちが『自分はこれを使うか』と真剣に考える姿勢は、地域の資源を次世代の選択肢へと変える第一歩でもありました。

今回のワークショップは決して華やかな取り組みではありません。それでも、商品が市場に出たときの受け止められ方を左右するのは、こうした現場での対話かもしれません。

「地域への恩返し」というビジョンがあり、
 「使われていなかった資源の再活用(米ぬか・海洋深層水)」という素材があり、
 それを「製薬技術」で形にする。

そこに次世代の感性が重なったとき、地域の取り組みは“つくる側の論理”だけでなく、“選ばれる視点”も含んだものへと近づいていきます。

水橋保寿堂製薬 担当者様

学生たちと向き合う中で強く感じたのは、彼らが“自分たちが納得できる価値”に対して注ぐ熱量の高さでした。用意された物語を受け取るのではなく、企画のプロセスそのものに主体的に関わろうとする姿勢が印象的でした。共創を通じて、私たち自身も富山の資源が持つ新しい可能性を改めて実感しています。

若者が関わることで、地域の取り組みは少しずつ“次の世代の視点”を取り込んでいきます。それは、地域の未来を考える幅を広げることにもつながります。

「日本一の美肌プロジェクト」は、まだ始まったばかりです。
今後も引き続き取材を続け、プロジェクトの想いに迫ります。

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