サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ

大阪・関西万博への出展を通じ、タカラベルモントが挑んだのは「美と健康の未来」と「循環の社会」。

万博閉幕の翌日から応募開始となった「アフター万博」プロジェクトでは、パビリオンのユニフォームを教育現場へ寄贈し、子どもたちと未来を考える新たな試みが動き出しています。

“モノ”ではなく“思考”を受け継ぐ。タカラベルモントの新しいレガシーの形について、石川さんに伺いました。

取材・編集:gooddo編集部

サステナビリティの原点 ―「語り継ぐ」ことがレガシー

ありがとうございます。実は、私たちの万博出展の原点は、1970年の大阪万博にあります。

当時の日本は、「作っては壊す」ことが当たり前の時代でした。けれども、今あらためて振り返ると、その中で建築家・黒川紀章氏が設計した当社の「タカラ・ビューティリオン」に込められた建築思想――新陳代謝を意味する“メタボリズム建築”――は、後の日本のデザインや建築文化に大きな影響を与えたことが分かります。

つまり、“壊して終わり”ではなく、そこから何を学び、どう伝えていくかこそが、本当のレガシー※だと感じたんです。

※レガシーとは、本来「遺産」や「受け継がれるもの」を意味する言葉。
タカラベルモントでは“形として残すもの”だけでなく、“思想や価値観を次の世代に伝えること”をレガシーと捉えている。

はい。今回のパビリオンでは「2050年宇宙時代の美」をテーマに、医療・美容・テクノロジーの融合を象徴的に表現しました。

私たちにとって“美”とは、単に外見を整えることではありません。
美容や医療が、テクノロジーを横断しながら、「見た目だけでなく、人の生き方や在り方を支えること」。
人の心と身体が調和し、前向きに生きる力を支えることが、私たちの考える“美”です。

万博では、その“美のあり方”を2050年という未来の視点から描きました。

「美と健康の未来」を考えることは、つまり「人の幸せのあり方」を考えることでもあったんです。

でも、キラキラと光り輝く美しい展示を見て体験いただくだけでは足りません。万博が終わったあと、その“美の世界”がゴミになってしまえば、私たちのメッセージが嘘になってしまう。

だからこそ、「未来に引き継ぐ」「ゴミを出さない」という姿勢を徹底しました。

今回、出展準備の中で社内の資料を整理していたら、写真をはじめとする当時の記録が次々と見つかったんです。それらはまるで“お宝”のようで、見た瞬間に感じたのは、「物があることで語り継がれるリアリティ」でした。

だからこそ、「アフター万博」では“物を残すこと”だけでなく、“考え方を残す仕組み”をつくろうと決めたのです。

はい。大阪・関西万博は184日間の限定開催です。だからこそ、閉幕後こそが出展者や来場者にとってのスタート地点だと考えました。

展示の体験というのは、どうしても時間とともに風化してしまうものです。だからこそ、体験を「語り継ぐ仕組み」にしていくことが大事だと思います。

実は今、当時のスタッフや関係者の“息遣い”まで残せるような記録映像の制作も進めています。

ニュース的な記録ではなく、関わった人たちの熱量や想いがリアルに伝わるドキュメントにしたいと考えています。

記録こそが、思想を語り継ぐリアリティを担保する -それが「アフター万博」の根幹にある考え方です。

アフター万博 ― ユニフォームがつなぐ未来

デザイナーのコシノジュンコ先生と一緒に制作しました。

色は「ゴールド」ではなく「シルバー」。コシノジュンコ先生曰く、「ゴールドは過去を象徴し、シルバーは未来を照らす色」。 未来をテーマにした展示にふさわしい色だと思いました。

また、メンズ・レディースの区別がない「ワンスタイル」を採用しました。

これは、“宇宙時代の多様性”を意識したもの。ジェンダーにとらわれず、一人ひとりが自分らしく輝く未来を象徴しています。

全員がメイクとネイルを施してブースに立ちました。

「美を提供する企業として、自分たちも進化しよう」というメッセージを込めたんです。

最初は少し戸惑いもありましたが、年配のスタッフからも「このくらいやらなきゃ!」と声が上がり、会場全体が一体感に包まれました。

はい。万博閉幕後、このユニフォームは応募くださった全国の小中高校、理容や美容、デザインの専門学校へ寄贈予定です。

万博閉幕日の翌日から募集を開始したのですが、すでに約40校応募いただいています。※11月4日現在

応募校は大阪や関西に限らず、関東、九州からも集まっています。中には「家族で見た万博の感動を後輩たちに伝えたい」と、児童が先生に声をかけて応募した学校もあります。

自分たちが見たいからではなく、後輩に伝えたいと来てくれた子どもが感じてくれた。まさに“循環”の始まりだと思いました。ユニフォームを通じて、子どもたちが次の世代へ考えを受け継ぐことができたらいいですね。

今回の募集では「どのように授業で活用したいか」を先生方に書いていただいています。押しつけではなく、学校ごとに自由な発想で使ってほしい。展示して終わりではなく、“考える素材”として扱ってほしいんです。

この取り組みは、まさに「Think Circular(考えを循環させる)」という私たちの理念を体現するもの。モノを媒介に、思考をバトンのように受け渡していく——それがタカラベルモントの考える“レガシー”なんです。

\ 寄贈先の募集詳細 /

企業としての実験 ― 万博がもたらした変化

そうですね。1970年の万博は、私たちにとって“挑戦”の時代でした。そして2025年は、“実験”の時代だと位置づけています。

社長の強い意志もあり「今回の万博では製品やサービスを展示しない」と明確に方針を出しました。商品を並べるだけならビジネスの展示場で十分です。私たちにとって万博とは、商品を並べ展示する場所ではなく、“人間の思考を飛躍させる場”。だからこそ、美容・医療・テクノロジーを融合させながら、“未来の美とは何か”を問いかけることに挑戦したんです。最終日には、お客様から逆に「あなたにとって未来の美とは?」と問い返されたスタッフもいたんです。

えを示すのではなく、共に考える。それこそが、私たちが万博で伝えたかったことです。

はい、万博を機に、社内にも確かな変化が生まれました。今年「サステナビリティ推進室」を立ち上げ、全社的に7つの重点テーマを設定しました。「CO₂削減」のような環境配慮に対する課題解決はもちろんのこと、「教育」「ジェンダー」「多様性」など、より人間的な課題を事業計画に落とし込んでいます。

さらに、「宇宙時代の美」についての研究も始めたいと考えています。

宇宙ではゴミを出すことができません。たとえば、宇宙で髪を切っても、その切った髪を廃棄する場所はありません。「では、それをどう生かすのか?」その問い自体が、まさに私たちが地球で直面している課題につながっています。宇宙時代を考えることは、地球時代のサステナビリティを考えることと同義なんですよ。

たとえば無重力環境では血流や皮膚の状態が地上とは異なります。その知見を生かすことで、高齢者のケアや医療美容にも新たな発想が生まれる。宇宙を研究することは、人がより健やかに、そして“美しく生きる”ための探求でもあるんです。

宇宙時代は、決して遠い未来の話ではありません。人類が宇宙で生活することを前提に考えれば、地球上の課題もより立体的に見えてくるのです。

宇宙での学びを地球に還元し、地球での気づきを再び宇宙へ返していく。その往復の中にこそ、これからのサステナビリティの進化があると考えています。

私たちはその視点を、次のものづくりに生かしていきたいと思っています。

次世代に託す“美と循環”のバトン

まず、来年度には大阪本社のロビーに「タカラベルモント万博ミュージアム」を整備し、1970年と2025年の万博に関する展示を行う予定です。

また、使用済みのヘアカラーアルミチューブを活用した「ORIZARA」などのアップサイクルプロジェクトも、継続的に事業化を進めていきます。

美と循環を事業の両輪に据え、100年先の価値を見据えた企業でありたいと思っています。

未来は“作る”ものではなく、“考え続ける”ものだと思います。

私たち企業も、教育現場も、市民も、それぞれの立場で社会課題に向き合うことで、持続可能な循環が生まれる。 タカラベルモントはこれからも、“美と循環”のバトンを次の世代へつないでいきます。

Profile

タカラベルモント株式会社

広報部

石川由紀子

タカラベルモント株式会社 広報部 マネージャー

大手広告代理店でトイレタリーメーカーや化粧品メーカーの担当営業、PR会社を経て2020年入社。

化粧品の広報を経て、コーポレート広報に従事。100年を超える会社の歴史や魅力、可能性を伝える活動を行っている。モットーは、「知恵と行動」