サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ

「野菜を作っているのは、農家ではなく“土”なんです」東京の都会で育ち、農業とは無縁だった株式会社BG代表の富松さん。

株式会社BGは、農業が直面する課題を「土づくり」から解決する独自の仕組みを構築しました。なぜ今、土にこだわり、微生物の力を活かした独自の農業システムで、食の価値観そのものを変えようとしているのか?

次世代に豊かな食を残すため、農業を「ロマン」と「創造性」に満ちた魅力的な産業へと進化させる富松さんの熱い想いを教えていただきました。

取材・編集:gooddo編集部

原点は、都会育ちが出会った「土」の奥深さ

私たちは“土の力”を軸にした次世代農業に取り組んでいます。

野菜がおいしくなる一番の理由は、肥料ではなく“土の力”なんです。そのため自然のチカラで土を育てる有機発酵資材を使ったり、土や環境へのやさしさを数字で見えるようにしています。 また、「Next Green Vegetables」というブランド野菜をスーパーや食堂で広げていて、「どうしてこの野菜はおいしいのか」が分かるようにしています。農家さんにもちゃんと収益が返ってきて、環境にもやさしい。食べる人も作る人にとっても良い仕組みを、2030年までに全国に広げていくのが目標です。

当時、私は東京生まれ東京育ちで農業のことを何も知りませんでした。26歳の時、脱サラして飲食代と企業のPR費で収益を上げる飲食店をやってみようと構想していました。その企画のために車で日本中の農家さんを回っていたんです

当時若かったため、お金もなく車中泊をしながら訪ね歩いていたのですが、農家さんたちは本当に温かく迎えてくださいました。私が腹を空かせていれば「腹減ったなら何でも食ってけ」と言ってくれ、何も言わずとも「風呂に入っていけばいい」と自宅に招き入れてくれたんです。

それまで知らなかった田舎ならではの温かさや人間らしさに触れ、衝撃を受けたんです。私たちは日々、スーパーで野菜を消費しているけれど、その裏で誰がどんな思いで作っているのか、全く知らなかったと。

そんな温かさや、日本がもともと持っていた豊かな文化背景に触れ、「この農業の素晴らしさを次の世代に伝えていきたい」と強く思うようになりました。

いえ、この体験をもとに、2008年に株式会社ベジリンクという会社を創業しました。保育園や学校に食材を届けたり、子どもたちが農に触れる「食育=触育」のサービスを展開したりと、主に都市と農地を人と人でつなぐ活動をしていました。

私自身が子どもの頃に農業と触れる機会がなかったからこそ、自分よりもっと小さい子どもたちに、農業の本質的な価値を繋いでいきたい──それが創業の出発点でした。

しかし、活動を続ける中で、次第に「農業の根本から変えなければ未来はない」と痛感するようになったんです。子どもたちに野菜を届けること自体はとても意義のある取り組みでしたが、同時に現場の農家さんたちと接する中で、もっと大きな課題が見えてきました

たとえば、化学肥料に頼りすぎた結果、土壌の力が弱まり、野菜本来の味や栄養が損なわれていること。さらに、多くの農家さんが高齢化し、「このままでは子どもに農業を継がせられない」と口にしていたこと。こうした声を聞くたびに、私がやっている食育活動だけでは根本解決にならないのではないか、と考えるようになりました。

農業の持続可能性を本気で考えるなら、食べ手に「農業の魅力を伝える」だけでなく、生産者が安心して未来へバトンを渡せる仕組みを作らなければいけない。そう強く思ったんです。

そこで2021年、ベジリンクでの経験や人とのつながりを土台に、より根幹となる“土づくり”に焦点を当てた株式会社BGを立ち上げました。単なる食育や流通支援ではなく、土そのものを再生することで「おいしい野菜」「持続可能な農業」「農業のリブランディング」という三つを同時に実現したい。その想いがBG誕生の原動力になりました。

農家さんを回る中で、皆さん口を揃えてこう言うんです。「俺は野菜を作っていない。野菜を作っているのは土だし、環境だし、太陽だし、雨だ」と。彼らは、土が持つ力や生態系を深く理解していて、畑を「山」のようにしたい、と語っていました

例えばですが、10グラムの土に、微生物が何匹いると思いますか?

正解は「50億」なんですよ。すごい量ですよね。彼らは、目に見えない微生物という生き物たちを相手に、科学や生物学の知識を総動員してものづくりをしている。それはもう、とんでもなくクリエイティブで、ロマンに満ちた世界だと感じました。私はこの事実に心を動かされてしまったんです。

そして農業の本質的な価値は、そこにあると気づいたんです。しかし、このエモーショナルな価値を、どうすれば多くの人に伝えられるのか。私は、その定性的な価値を、定量的に、そして多くの人に広めていける仕組みを作ろうと決意しました。それが私たちがやっていることです。

美味しさが社会貢献になる、事業の仕組みとインパクト

左|一般の野菜で育った土 2週間冷蔵
右|自然に近い「いい土」で育った野菜 2週間冷蔵

消費者のニーズは、突き詰めれば「おいしさ」です 。世間では「有機野菜だから」「産地直送だから」といった価値観が浸透していますが、それだけでは本当の意味で「おいしい」とは言えません

いくら環境や健康に良いと言っても、美味しくなければ選ばれません。だから私たちは“美味しさ”を入り口に据えています。スーパーで試食をお配りしたこともあるのですが、試食したお客さんの78割が購入してくださるのは、おいしい証拠です。

「おいしい野菜」を可視化するため、農薬や化学肥料の使用を極力抑え、土壌の微生物生態系を豊かにする農法を確立しました 。化学肥料で育った野菜は、特定の栄養分を吸い上げて味が単一化しがちです 。しかし、微生物が媒介することで、土中の微量なミネラルを吸収し、複雑で深みのある味になるんです 。

つまり私たちの事業は、野菜本来の「おいしさ」を軸に、土の力を最大限に引き出す農法を農家さんに提供し、その野菜のおいしさをきちんと評価して流通させる仕組みです 。

試食販売をすると、皆さん本当に驚かれます。私たちが提供する野菜は、甘さだけでなく、奥行きのある「深さ」が特徴です。「え、これニンジンですか?こんなに香りがよくて甘いんだ」って。ニンジンは毎日食べる野菜だからこそ、その違いがよくわかるんです。あるお客様からは「今まで土のことなんて考えたこともなかった」という声もいただきました。

一度買ったお客様が、翌日「昨日買ったけど美味しかったから、今日もまた来ました」とリピートしてくださる方もいました。

特に子どもたちの反応は正直です。味に敏感な子どもは、硝酸態窒素(アクやえぐみの原因)が残っている野菜は食べません。でも、BGの野菜は喜んで食べてくれるんです。実際にプロジェクトを進めていくなかで、野菜嫌いな子供を持つ関係者の方より「普段食べないのに、BGの野菜はバクバク食べてくれた」という嬉しい報告も受けています。

農家さんとは二人三脚で進めています。

農家さんには本当に様々な課題があって、「このままでは子どもに農業を継がせられない」という切実な声もよく聞きます。土壌の劣化、気候変動の影響、化学肥料や農薬の価格高騰 ──そうした課題に直面しているからです。実際、北海道の大規模農家さんからは「今の経営数字でもギリギリなのに、この先どうなるのか不安だ」と率直に相談を受けました。

一方で、私たちと一緒に段階的に化学肥料を減らし、土の力を回復させる取り組みを進めると、「未来に光が見えた」「息子に農業をつなげる希望が持てるようになった」と前向きな言葉をいただいています。小さい農家さんはもちろんですが、北海道の200ヘクタール規模の畑を管理する大規模農家とも協力し、実証実験を進めたりもしているんです。

さらにこういう野菜を扱う企業からの反響もあります。スーパーマーケットなどの小売りもそうですが、社員食堂や飲食チェーンとも話が進んでいて、新しい土を起点とした野菜を提供することに対して前向きな評価をいただいています。これは本当に嬉しいことですね。

“土の力で育った美味しい野菜”を選ぶという新しい選択

私たちが目指しているのは、「ネクスト・グリーン・レボリューション」です。具体的には、“土の力で育った美味しい野菜”を選ぶという新しい社会的運動を広げていきたいと考えています。

まずは、消費者との「接点」を増やしていくこと。スーパーや社員食堂といった、生活の場に「Next Green Vegetables」を届け、「毎日の食卓からサステナブルな選択ができる」環境を整えたいです。

ここで大切にしたいのは、「なぜおいしいのか」という理由で選ぶことです。ネクストグリーンベジタブルは、土壌の状態や育った環境を丁寧に評価し、“おいしい理由=土”を明確に伝えるブランドです。消費者の皆さんには、日常の全ての野菜を変える必要はありません。週末の食卓や特別な一皿に、旬のネクストグリーンベジタブルを取り入れて「背景や季節を味わうひととき」を楽しんでいただきたいと思います。

これは、高度経済成長期に生協が「安心できる食」を広めたように、現代における新しいレボリューションになると信じています。「高いからおいしい」ではなく、「なぜおいしいのか」を共有し、その選択が自分や家族の健康、地球環境、そして農業の未来につながる──そんな価値観を広めていきたい。そして次の世代に、豊かな食文化と誇りある農業をバトンとして渡していきたいと考えています。

最終的には「この農業は人に依存しすぎない、持続する仕組みなんだ」という概念を広げていきたいとも思っています。私たちが向き合っているのは、日本の食文化を築いてこられた70代、80代の農家さんたちです。彼らが培ってきた技術や哲学が、この世代で途絶えてしまうのはあまりに惜しい。90代の大地を守り続けた方々、70代の農業を継いで志してきた方々、そこから私たちの世代がESG的視点も取り入れながら仕組みとして広げ、さらに次の世代へバトンをつなぐ。それこそが、農業に育ててもらった私からの、恩返しだと思っています。

ありがとうございます。この度、東急ストア フードステーションで東京・横浜で期間限定のポップアップストアを開催いたします。

開催概要
会場:東急ストア フードステーション宮前平駅前店 店頭
日程:2025年10月14日(火)〜10月20日(月)
時間:10:00〜20:00

その他、11月からは自然食品F&F 麻布十番店・自由が丘店・阿佐ヶ谷店でも開催予定です。

詳細はWebサイトならびに公式アカウントにて、順次ご案内差し上げますので、ご興味ある方は公式LINE(リンク)をご覧ください。

農業は、生産者、流通、消費者が一体となって初めて持続可能になります。野菜を食べて「おいしい!」と感じたら、ぜひ、その背景にある「土」や「微生物」、「農家さんの想い」に目を向けてみてください。その一歩が、日本の農業をより豊かにし、私たちの未来の食を創造することにつながると信じています。

Profile

株式会社BG
代表取締役社長
富松 俊彦

「顔がみえるのその先へ」を理念に、保育園向けに食育を価値とした野菜提供サービスを展開する株式会社ベジリンクを創業。
首都圏約1,200拠点の保育施設に食育・給食食材サービスを提供するまで拡大。
その後、2021年に株式会社BGを創業し、「Next Green Revolution/おいしさにも地球にもいい土の革命」の実現に向けて、
土づくりから食まで一気通貫した新たなモデルの社会実装に挑戦している。