

サステナビリティのリーダーに密着!
ビジネスと社会貢献を両立する人と企業の深掘りシリーズ
「本当に大切なものは、いつの時代も変わらない」――そう語るのは、大阪・関西万博2025に出展するパキスタン・パビリオンのプロジェクトディレクター、ムハンマド・ナセールさん。
テーマは「一粒の塩の中に広がる宇宙」。文明と人類の歴史を支えてきた塩、なかでもパキスタンが誇る「ピンクソルト」に焦点を当て、自然と人間のつながりを再発見する体験を提案します。
塩の持つ力を通じて「自然」「歴史」「健康」「自己」との再接続を促し、未来への知恵を分かち合いたいという想い。その背景にある価値観やサステナビリティの工夫を伺いました。
取材・編集:gooddo編集部

一粒の塩に宿る宇宙
パキスタンパビリオンのテーマについて教えてください。
テーマは「一粒の塩の中に広がる宇宙」です。
塩は人類の歴史と深く結びついてきた、最も根源的な自然資源のひとつです。パキスタンが誇る「ピンクソルト」は、古代から現代に至るまで人々の生活を支え続けてきました。
50㎡という限られた空間だからこそ、この一点にすべてを託しました。展示では、ピンクソルトの産地であるソルトレンジの歴史を描いた壁画や、白・淡いピンク・濃いピンクといった色合いの異なる岩塩を使ったオブジェを設置しています。
来場者の皆さまには、塩という自然のエレメントを通じて、自分自身と向き合い、心と体を整える時間を過ごしてほしい。そして「自然と自分自身とのつながり」を再発見してもらえる時間になれば嬉しく思っています。

今回なぜ、大阪・関西万博に参加することを決めたのでしょうか?
この万博は、パキスタンという国の「現在」と「未来」を世界に伝えるための絶好の舞台だからです。
テーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」に呼応するかたちで、私たちは「塩」という最も根源的な自然資源を通じて、本質的な価値を提示したいと考えました。
パキスタン社会にとって大切なのは「自然との共生」「文化的な継承」「資源の尊重」です。何千年もの歴史を持つ文明の発祥地として、その恵みの中で暮らしてきた私たちにとって、塩は象徴的な存在なのです。
だからこそ、このパビリオンは単なる展示ではなく、未来へ向けての「メッセージ」だと考えています。

ご自身が今回のプロジェクトにかける想いや動機を教えてください。
私にとって、このプロジェクトは単なる展示ではなく「再接続」の機会だと考えています。
自然と歴史、人の健康、そして内なる自己――ピンクソルトという資源を通じて、それらが再びつながるきっかけを提供したいのです。
パキスタンは多様で豊かな自然を持つ国であり、その恵みの象徴がピンクソルトです。私はこの塩を、国の宝であると同時に「世界と分かち合える資産」だと捉えています。
「一粒の塩から、人は癒され、自然を思い出し、自分自身と向き合うことができる。そんな体験を届けたい」
この想いが、私がプロジェクトに強く関わる理由です。そして、万博という国際舞台を通じて、パキスタンが持つ豊かな可能性を未来世代へとつなげていきたいと考えています。

ピンクソルトがもたらす体験価値
パビリオンで表現されているサステナビリティの要素や工夫を教えてください。
パビリオンの中心にあるピンクソルトは、100%天然の鉱物です。人工的な加工を加えることなく、そのままの姿で展示しています。自然からの贈り物をそのまま伝えることで、「地球からの贈り物としての塩の持つエネルギー」を来場者に感じていただきたいのです。
また、展示にはパキスタンの歴史的背景も盛り込みました。インダス文明やモヘンジョダロの時代から塩は人々の暮らしに根づいており、その知恵と営みを紹介しています。これは「資源を持続的に活かしてきた人類の歩み」を示すものでもあります。
さらに、ピンクソルトは調味料にとどまらず、健康や美容、建築など幅広い分野で応用可能です。こうした多面的な価値を提示することで、「自然をそのまま活かすシンプルで持続可能な知恵」を未来世代に伝えたいと考えています。

来場者や関係者から寄せられている印象的な声はありますか?
とても印象に残っているのは、来場者からいただいた「塩がこんなにも心に響く素材だとは思わなかった」という言葉です。
ピンクソルトに直接触れたり、光の加減で表情を変える岩塩のオブジェを眺めたりする中で、多くの方が「癒し」や「浄化」、そして「自然とのつながり」を感じてくださったと聞いています。
「一粒の塩から、これほど多様な感情や気づきが生まれる」ということに、深い手応えを感じています。
未来世代にどのような責任やメッセージを伝えたいですか?
私たちが未来世代に伝えたいのは、「本当に大切なものは、いつの時代も変わらない」ということです。
テクノロジーがどれほど進歩しても、人間の健康や自然との調和といった価値は普遍的です。だからこそ、次の世代に向けて「自然の恵みを大切にし、調和を保ちながら生きること」の重要性を伝えていきたいと考えています。
ピンクソルトはその象徴です。古代から現代まで、人々の暮らしを支え続けてきた塩は「持続可能な知恵」を体現しています。
「自然からの贈り物をそのまま活かす」というシンプルな態度が、未来を守る鍵になるはずです。
私たち世代がその責任を自覚し、次の世代に正しく引き渡すことが、最も大きな使命だと思っています。
未来への出発点としての万博
万博終了後、この取り組みをどのように未来につなげたいと考えていますか?
万博はゴールではなく「出発点」だと考えています。
今後はピンクソルトを単なる食品としてではなく、健康や美容、ライフスタイル全般へと広げていきたいと考えています。国際市場での認知度を高めることで、パキスタンという国の新たな魅力を発信し、観光や文化交流、さらには貿易の拡大にもつなげたいのです。
特に日本や東アジアとのつながりは大切にしたいと思っています。ピンクソルトは調味料にとどまらず、観光、貿易へと広げ、文化交流のきっかけにつながればと願っています。そこに共感や協働の余地があり、新しい価値を共に創り出せるはずです。

日本の読者に伝えたいメッセージをお願いします。
日本の皆さんは、自然との調和やものづくりの美意識において、パキスタンと通じる感性をお持ちだと感じています。
ぜひ、大阪・関西万博のパキスタン・パビリオンにお越しください。一粒の塩から始まる旅を通じて、健康や環境、そして未来社会の在り方について一緒に考えるきっかけになれば嬉しく思います。
「塩は小さな存在ですが、その中には宇宙のような広がりがある」と私は信じています。展示を通じて、来場者の皆さんが自然や歴史、そして自分自身とのつながりを再発見していただければ、それが何よりの喜びです。
これからパビリオンを訪れる人に、「ここでしか味わえない体験」についてぜひメッセージをお願いします。
パキスタン・パビリオンでは、ピンクソルトに実際に触れ、光や空間と共鳴するその存在感を五感で体験していただけます。
展示空間に並ぶ岩塩のオブジェは、見る角度や光のあたり方によって表情を変えます。さらに、産地ソルトレンジの歴史を描いた壁画や、淡いピンクから濃いピンクへとグラデーションを織りなす塩の結晶が、来場者を“塩の宇宙”へと誘います。
「塩が心を癒し、自然と自分自身をつなぐ感覚」を体験できるのは、ここでしか味わえない特別な時間です。展示を通じて、皆さんが日常を見つめ直し、小さな一粒から大きな未来を感じ取っていただければ幸いです。